第43話◆昼食を摂りながら(3)・・・改
文字数 4,994文字
「お父様!」
「?」
そして、
「軽々しく
怒っているとも取れる国王の険しい顔。
何かを
「陛下の魔族追放の意義の重さが解ろうというものですね」
しかし、その弟は無情だったのである。
「
「……ファル!」
「………………」
兄の小声の
更には。
「……もぐ……。求婚
「不本意ですけれど、同意しますわ」
弟子と娘は大人の根回しに気付いている気配すら無かった。
(――ファル!)
クリスファルトの視線による要求(解らせてくれ!)を、ラファルドは苦笑で受け入れる。
「殿下にはいい迷惑でしたでしょう。ですが、魔王陛下の求婚は公国が積み重ねて来た対処が誤りでなかった
「…………」
セレナスの表情が陰った。
自由の無い選択に巻き込まれたくない感情に変わりはない。
それでも、求婚を退けたことが大きな失敗だったように思えた。
クリスファルトは脱線を修正する為の転換が利き過ぎてしまったことに、胸中で苦笑する。
「殿下」
「……何でしょうか、クリスファルト様」
「殿下が魔王陛下でしたら、どのような国に求婚を申し込みますか?」
突然の話題の意図は解り兼ねたが、不味いのは返事が出来ないことだった。
「……それ、は――応分の利益を見込めるか……最低限、信用に
「交流が無い人間の国をどうやって信用すんだ?」
グラディルが突っ込んだ途端、セレナスに青筋が浮かんだ。
「黙らっしゃい!」
「間違った前提で仮定を展開しても、信用に
からかいで切り返された気がして、セレナスの額の青筋が追加される。
(……間違ってはいないけど、助言にもなってないかな……)
苦笑に
「希望的観測が担保されていることだな。現状であれば――魔族を追放してのけた国王を
「……まあ!」
「そんなんでいいのか? もっとこう、勝ち目みたいなもんがあったんじゃねえの?」
意外の感を隠せないセレナスとグラディルに、クリスファルトは穏やかに
「
「――ふん。この程度の察しがつかなくて、国王がやってられるものか!」
国王はむっすり黙り込んだが、不機嫌だからではない。自慢でもない。
呼吸を合わせただけである。
「殿下。魔族と人族の国家には
「……そうなのですか!」
相槌を打つセレナスには明るい落ち着きが戻っていた。
だが。
「何でだ?」
グラディルはまだ首を傾げていたのである。
(……もう! 殿下とのやり取りは何だったんだか……!)
ラファルドがため息で
「勝ち目を
「おう。……あ、そういうことか!」
(……追試だ! 休学が明けたら、追試だ!!)
ギラリ、と光る公国の英雄の目。
政治であろうと、武芸であろうと、勝ち目は見失われてはならないもので。時として武術以上に戦略を以て戦闘に当たる軍人ならば、尚のこと勝ち目の重要性に拘らなければならないはずだった。勝ちの目を見誤っているだけなら、まだ、減点もの。他人に説かれて初めて納得できるという体たらくは、見失っていた――見えてさえいなかった、と同義。あるまじき事態なのである。
しかし、不肖の弟子が無音の落雷に気づくことは無く、当事者以外の誰もが知らん顔を選んだ。
「おまけに、婚約を前向きに検討したとしても、突き当たる問題は同じなんですよね」
「……同じ、ですの?」
今度はセレナスが首を傾げてしまう。
(出来れば)自室で大人しくしていて貰いたい(※大人たち限定の本音)王女様なので、減点やペナルティなどは特にない。
フォローはラファルドの役目である。
「ええ。先日の殿下のお断りは、魔族の国家――ひいては魔王陛下を拒む意思表示ではありませんから。彼らを否定しないことで公国に発生する急務、それが――」
今度は自信満々のグラディルだった。
「状況を生かす方法を探すこと、状況が持つ可能性を見極めること。だろ?」
今度はラファルドも笑顔で
「その通り。その意味でも有用なのが殿下の御提案なのですが――」
本当に保留にするんですか? と、視線で国王に問いかけた。
ところが。
「やらん! そんな危ない橋、絶対に! 渡るものか!!」
と、態度をさらに硬化させたのである。
「陛下……!」
神祇の兄弟が揃ってため息をつく。
公国において最終決定権を持つのは国王である。
その当人が拒否を発動してくれたばかりか、感情的な意固地さまで発揮していた。
しかし。
「気にしなくてもいいっすよ、クリスさん。……殿下もな」
「えっ?! ……そうなのかい?」
落ち着きはらったグラディルにクリスファルトが目を丸くし。
「どうして、
「ラディ、その心は?」
「だって、もう後は丸め込まれるだけ、の流れだろ? これ」
「――――、――ふ、ぶふっ!」
愛娘は絶句するだけに留めたが、
「
「…………」
追撃に同意を求められたグラディルの親友兼悪友は無言を
勿論、国王陛下はおかんむりである。
「――おいっ!!」
国王の意思を
師であり、国家の
「んだよ!?」
グラディルの不機嫌は、それに倍する威圧で迎撃された。
けれど。
「貴様は! 親代わりにして、師匠たる我が意を何と心
「
むしろ、
「――――!!」
「……ぐうっ……。我が娘ばかりか、我が弟子の忘れ
意訳:お前がしっかりグラディルを
(※娘のことは相手が誰であれ気にくわないので、
「――――」
さっぱり不明な話の脈絡に加え、言われようのあんまりさに絶句するラファルド。
「陛下」
「何だ、クリス」
「今しがたの言動、
兄が代わりに
「……貴様っ! 一度ならず、二度までもお――、余を!!」
「『余を!!』?」
真っ向からの駆け引き(視線の
「…………
ただでさえ、可愛いのか可愛くないのか
「可愛い……? 勇猛が似合う
「ぐむっ!」
「ファル!!」
本気で唸り始めた国王に、兄の牽制を無視してラファルドは白けた目を向けた。
「勝手な物差しで
「……一度や二度くらい、負けて見せればまだ可愛いものを……!」
「……大人が子供に
「ファル」
落ち着いた声音がクリスファルトの最後通牒だとは、ラファルドも
「解ってます。……陛下。殿下の
ため息で初めからそうって言くれと文句をつけると、クリスファルトもラファルドに同意した。
「…………そうですね。陛下も
セルゲート家からの保証は得られたが、面白くなさそうな国王である。
「――ふん! 協力を打診しようにも、居場所も解からん! 連絡をつける手段さえ――」
「あら。お父様、魔王陛下の帰り
セレナスが
「……そういや、そんなのも有ったよな」
グラディルが呆れ気味にため息をつく。
「使えるのか? 本当に??」
一番
「それは……使ってみませんと。確か――」
「……、して? 本日はどのような用件かな?」
「!?」
唐突な声に、誰もが反射的に
果たして、
「――早っ!!」
呆れかえる内心をグラディルが代表する。
神祇の兄弟はそれとなく視線を交わし合った。
(
「ふむ。本
直前までとは打って変わった落ち着いた声で、国王が