第4話◆晩餐・・・改
文字数 3,425文字
薄暗い、石造りの方形の部屋の中央に、でんと位置する縦長の卓。
レースで
灯された明かりに
水を固めたかのように透明感
華やかなのに地味という矛盾を無理なく体現する
「――――」
絶句したまま時間を止められたような少年二人を国王は
「
国王を
「――――」
用意されていく食事には目もくれずに国王を見つめるグラディル。
ラファルドはただひたすらに呆れ返っていた。
(……クリス兄さん、止めてよ……! こんな、子供でもしない
理由すら解らない、誘拐同然の召し出しの先に在ったのは国家のトップとお食事会。
まして、食事を共にするのは歓待。
ラファルドも八つ当たりをすることで、思考がまともに機能する余地を確保していた。
(家の
気遣わし
ラファルドの想像とは
「……こほん!」
「!!」
背後に控える給仕の
そして、国王への返礼が抜け落ちているという促しだとラファルドは解釈した。
「
「堅苦しい
(……だったら、こんな子供じみた悪戯なんか仕組まないでよ!! 作法を飛ばしたら飛ばしたで苦情が来るんだから、そういうことはいの一番に言うのが大人の――)
「心得ました。では」
開き直ったとも取れるグラディルの簡潔な応答が、かえってラファルドを混乱させた。
(……ええっ?! ちょ、ちょっと――! この手の経験は無いものだとばかり――?!)
「どうした?」
「――!? ……っ、あ、い、いえ――その、」
「そこな若者、グラディル=トラス=ファナンの父
国王は冷たいくらいに落ち着いていて、不自然なくらい無表情だった。
「……ええ……、それは(なるほど?
グラディルに気を
同時に、この晩餐が一種の茶番劇であることも
問題はこんな
「壮健そうで、何よりだ」
ラファルドの返答を無視して、目を細める。
(ちょっ、)
「陛下の御壮健こそ、
簡素ながら、綺麗とさえ言える一礼を国王に返すグラディル。
慣れた感じすらあるやり取りに、ラファルドの混乱と絶句は拍車がかかった。
(――――ちょ、ちょっと――?! 侍女にひん
「客人、席に着かれるがよい」
二人の着席を合図に、部屋の隅に着座で控えていた楽器奏者が演奏を始めた。
空だった二人分のグラスに水が
取り立てた会話も無く、
(……くっそう……!
黙々と
真剣に集中しているからか、ラファルドは気づいてさえもらえなかった。
(先代勇者が公国最強の武芸者に師事していたのは誰でも知ってる事実だった……んだけど。勇者の息子とまで
ラファルドは半分以上拗ねていたが、事実は少し異なっていた。
グラディルも大人気ない態度に終始した国王も、ちらちらとラファルドの様子を窺っていたのである。
片方は大丈夫かなあ……? と何処か不安気に、もう片方は
ただ、双方共に武芸に通じており、危険を察知する本能には
ささやかな仕草にも敏感に反応し、ラファルドの視線が動く時には完璧な外
何故、そんな事になっているのかと言えば、一人だけ明らかに黒雲を
今はまだ放電の段階だが、何時落雷に変わるか判らない
グラディルと国王の間では無言の押し問答(という名の責任の
『どうすんだよ、これ!
『知るか!』
『――おい。何の考えも無しに
『知るか。
『何だよ、それ』
『教えてなど、やらん!』
『……。あ、そ。んじゃ、頑張って』
『――待て。何の為に貴様を巻き込んだと』
『……やっぱり
『おっと』
(とりあえず、ラディの疑惑は一旦棚上げで。陛下のお考えは
「陛下」
「!!」
「何だ」
しかし、素っ気無いくらいの応答は胸中を全く
「もう
国王の対面の空席にも銀食器とナプキンが用意されている。
「…………。待て。今しばしで到着しよう」
不自然な間も気になったが、それ以上に絶句させられた事が在った。
(……もう、しばらくって――!! ええーっ?!)
今日の晩餐は国王の主催。しかも、事前周知無しという極めて私的なもの。
客分である少年二人が会場に到着した時には既に、主催者にして主
これは特例だ。
砕けた
つまり、最も遅い参上が許されるのは国家最高の主権者である国王が招く客分にして、最も身分の低いラファルドとグラディル。
それ以上の遅参は原則、許されるものではない。
(……非常識にも程が在るんですけど。……欠席ではなく遅刻――好意的に、常識的に解釈するとしたら、余程重要な人物ってことに……!)
ラファルドもグラディルも『学生』。身分と看做される立場は
国王の
(どういうこと? 国王が顔を繋がなければいけない(多分、自分達にとっての)重要人物って――)
胸中の
閉め切られた扉の両脇に控えていた騎士が、一歩進み出た。
「第三王女殿下、セレナス=アストアクル様! ご到着に御座います――!!」
「(なるほど、着替えか! だったら――、――って、この会食は――)!!」
「?!」
反射的に席を
誰がどう見ても、ラファルドが無礼だからだ。
騎士達による取り押さえを食らわずに済んだのは、
では、必要を判断するのは誰か――この場の主催者である国王ただ一人。
国家の最高主権者が悠然と構えている限り、それに倣う以外のことは許されないのだった。