第96話◆告白
文字数 7,955文字
「――こほん!」
セレナスの咳払いを受けて、術師の一人が仕方なしに空気を引き締めた。
「古代人の関わる遺跡――ならば、魔王陛下が見失う理由になりますね。公国の特級地図に記載が無いのも、治安という観点からは仕方がない話です。魔物が出るなら、おいそれと足を運ばれるのは困り物ですから。ただ――もし、そこが本当に賊の塒だったら、という前提ですが、こちらも相応の支度を整える必要が出てきました」
「そうだな。古代人の遺産に巣食う魔物は平常よりも数段手強いのが相場だ」
「……面子の確保も問題ね。数だけ揃えばいい、ってもんじゃなくなったわ! ……」
話が予定通りの軌道に戻りセレナスはほっとなる。
その一方で、胸中には疑問も残った。
(魔王の力すら弾く遺跡――それが本当なら、どうして、特級地図の”抜け”に? 公国が土地ごと接収したとしても、不思議は――)
「しかし、殿下。そのような遺跡の話、何処で御耳に――?」
サマトが当然の疑問を口にする。
「――え? ………それは、その……」
返答するのは難しくないし、状況を思えば、答えることこそが当然。
けれど、直前の失態を覚えていればこそ、歯切れが悪くなった。
「実は――」
セレナスの口から出て来たのは、少なからず意外な人物の名前だった。
「……それで、私の寝室に押しかけて来た――と?」
少し煩わし気な表情で、国王は娘と御付きの一群を一瞥した。
グラディル同様、徹夜で働き続けた対価として、時価総額でも、軽く億超えを達成しそうなベッドで、昼間から鼾をかいていたのである。
「危急ゆえに作法を省略してしまったことは、お詫び申し上げます。陛下。何分、陛下の膝の上で揺られていた時に覗き見ていた書類が原因、でして……」
その傍らでしおらしく詫び、気恥しさを漂わせるセレナス。
その同道者たちは、王女の背後で跪いて畏まっていた。……ただ一名を除いて。
「……解ったら、とっとと放せってんだ! 糞師匠っ……!!」
叩き起こそうとして(周囲の制止はセレナスが握り潰した)国王から反撃を貰い、組み敷かれたままのグラディルが苦し気な呼吸で喚く。
糞師匠はむっとした顔で、不甲斐無い弟子を睨みつけた。
「――。道理で、ごつごつした抱き心地の枕だと――。どれ」
「……きゅう……」
国王は締め落としたグラディルを、ベッドから蹴り出す。
それはセレナスが思う以上に雑な扱いだった。
「…………お父様、戦力の減少は喜ばしくない、と言いますか――」
歯切れが悪くなるのは、国王への苦言となるからである。
「ん……? 出掛けに叩き起こせ。装備なんぞは裸でなけりゃ十分だ!」
しかし、当の国王は歯牙にもかけない。
そして、落とされたばかりのグラディルがすっくと立ちあがって、噛みついた。
「ざっけんな! コラ!! 可愛い弟子を何だと思って――」
「……!!」
スタミナ自慢の騎士達にも、失神から秒単位で自力復活できる者はまずいない。
扱いがぞんざいになる理由を見た気がしたセレナスとその同道者たちだった。
「ちっ……!」
安眠を妨げられた腹いせなのか、国王は力ずくで抗議に来た不肖の弟子を(露骨な舌打ちをしておきながら)嬉々として迎撃する。
「…………」
幾ら何でも気安過ぎると無言で語る、入室以来、跪いたままの騎士たち。
彼らを視線と仕草で宥めると、セレナスは顔を曇らせた。
「…………お父様?」
「――――」
一撃で床に沈められた弟子を前に、その師は自身の運命をも透かし見る。
「……仕方あるまい……」
思う所はあったが、不自然なほど生真面目な顔を選んだ。
「因縁と言えば因縁、なのだろうからな」
「……因縁?」
誰と誰の間に、そんなものが在るというのか。
「――――」
床に沈められたはずの御付きがむくりと起き上がって、首を傾げる主を睨んでいた。
けれど、誰も、気づこうとさえしない。
国王は重々しく口を開いた。
「先代勇者に探索を任せるはずだった――」
「――――!!」
グラディルが絶句する。
まさか、父クレムディルが向かうはずだったとは。
「お前が言う遺跡は、そういう場所だ。充分な支度を整えた上で向かえ。賊の塒で無かったとしても、な」
団体行動にはあまり適さない気性の、高位戦力。
当時の勇者の評価はそういうものだった、とセレナスは聞いている。
国王に匹敵する火力があって、ようやく単騎で挑める可能性が出て来る場所、ということだ。
セレナスが想定していた以上の難所であるらしい。
そして、国王の言葉が意味することは、国家が勇者に任務を下賜したということ。
「……では?」
「資料が残っている。きちんと目を通して置け。恐らく、賊はそこに潜んでいよう」
「お父様?」
「妙な組織が巣食っている遺跡――当時も、そういう見立てだった。経験さえあれば、息を潜めるのに苦労はすまい」
「隠れ家としても現役(内偵は終えた状態だった)、(ということ)ですのね……。解りました。入念な支度を整えた上で、出発させて頂きますわ!」
「……許嫁候補はどうする?」
魔王の力を借りる。それは視野に入っていて当然の選択肢だ。
「公国の歓待を受けて頂きますわ。いくら何でも、働き過ぎですから!」
事も無げに答える娘に、父はあるかないかの笑みを浮かべた。
「そうか……、気を付けてな」
「はいっ! ――皆!!」
「はっ!!」
セレナスの掛け声に一度低頭してから、騎士達は立ち上がる。
そして、セレナスを先頭に、11人が一斉に退出した。
「放してくれよ……!」
ただ一人、国王が腕を取って引き止めたのがグラディルだった。
求めには応じず、無理矢理引き寄せて、隣に座らせる。
「クレムは……、ずっと、弟の消息を追っていた」
「それが?」
その程度の事実は今更であり、一人引き離された結果がどんな体罰で帰って来るのか、の方が余程気がかりだったグラディルである。
「……!!」
国王は咳払いと視線で寝室の扉を閉ざすように番の騎士に指示し、数分時間を計ってから腕を放した。
「それを握っていたらしい組織の塒――それが、」
流石に、少しばかり苛立たしかったグラディルである。
「あの遺跡、ってのはもう――」
だが、国王は無表情で、何処か暗い雰囲気を纏っていた。
話したくないことを打ち明けなければならない、とでも言うように。
「まだ何か、あんのかよ?」
「タイミングが良過ぎたんだ。探りを入れようとした途端、探るはずだった勇者が消息を絶つ」
「その組織が親父の仇だとして」
グラディルの仮定に、国王は首を振った。
「いいや、組織はもう残っていない」
「は?」
「壊滅は、確かめた。公国の勇者が消息を絶ったんだぞ? 何の確かめもせずに、手を引けるものか! 勇者が一番頼りになる戦力だったのは間違い無いが、勇者だけが公国の戦力だったわけでもない」
グラディルは慎重に国王を見つめる。
「……それで?」
「公国内に残党が居たとしても不思議はないだろう。だが、組織が遺跡に残存している可能性は、無い」
「何故?」
「壊滅させたのが誰なのかが、解からなかった。表からも、裏からも、伝手を駆使して探った。それでも――掴めなかった。国内の残党を掃除して解かったのは、彼らも本拠の壊滅を知らなかった、という事実だ」
「壊滅犯の正体を掴まない限り、怖くて元基地は使えません――てか?」
グラディルはわざと語尾を茶化してみたが、国王には通じなかった。
「そうだ。一応、定期の監視は掛けていたのだがな。ここ数年は、難しくなっていた……」
魔物の活動の活発化が原因である。
件の遺跡に近づこうというのは、探索目的の冒険者だけ。近辺には村落も無ければ、都市に通じる街道も通っていない。おまけに、水源にも乏しい為、野営にも適さない。
優先されるのは、国家の機能に支障を来さない為の人員の確保だった。
幾つもの理由が重なって生まれた隙を突かれた、ということなのだろう。
国王の顔には忸怩たる悔しさが覗いていた。
「……で?」
グラディルは先を促す。
国王は躊躇うように目を閉じ、意を決したように目を開けて、グラディルを見据えた。
「セルディム=マグス=ファナムを殺す覚悟がお前に在るか?」
ばっさり、斬り捨てられた――そんな心象を持ったグラディルである。
「……、それは――その時になってみねえと、何とも言えねえよ。俺は……何も知らない。叔父さんが何に苦しんで、何に悩んで今に至ったのか。そんな話をしたことは一度も無かったし」
国王は追い打ちをかけた。
「クレムに探らせるはずだった組織を壊滅させた犯人――それが、セルディムでも?」
突然の結論に、思わず、グラディルは国王を見返してしまう。
「師匠……?」
「昨晩だ。昨晩の白い光の帳――、あれを見て、何故魔族がこの大陸から放逐されることを大人しく受け入れたのかが解かった気がしたんだ。魔族は、報復が怖かった。セルディムがクレムディルを直接殺害した犯人だとしても、そこには――事情があった。クレムを殺したことは、想定外の事態だったと。ならば、間接的に関わっているのは、組織の構成員。それも、魔族の、だろう。恨みの矛先が向くのは恨まれて当然だからだ。昨晩のあれがあの時点でも使えるものだったなら――、この大陸の魔族は全滅したはずだ。幼子から老人、男女の区別なく、根こそぎに出来たはずだ」
ガルナード=アストアルの余りにも真っ直ぐな表情に、グラディルは、もしその現場に居合わせたとしたら、セルディムを止めていただろうことを感じ取った。
何故、師匠がそんな決断をするのかと言えば。
「……想像以上に面倒臭いんだな、国王って……!」
微かな笑みが浮かんだのは、国王の顔だった。
「殺せるものなら、殺してしまいたかったぞ! 俺は。俺の初めての弟子の仇でもあったことだしな。ただ――魔族は公国が大陸に覇を唱える以前から迫害の対象でもあった。人間を忌み嫌うだけの理由は――人間に報復を目論むだけの憎悪を培ってきた時間は――、魔族にも在る。おまけに、二度目の追放刑だ。だから、最後の情けだった。不服を唱えるなら、今度こそ、容赦なく――! とな」
「んで、俺にどうさせたいんだよ、師匠?」
グラディルは結論を求めた。
多分、あの偽白百合姫は待っている。国王の寝室の扉の前で、待っている。
待ち構えているだろうお仕置きは鬱陶しいが……仕方が無いと思わなくもない。
多分、偽白百合姫も憧れている。父親の背姿を、眩しいほどに強く――。
「……どちらでもいい。今となってはな」
「……(今となっては)?」
「俺個人の感情を言えば、殺したい。魔族をそう思ったのと同じ理由でな。出来れば、お前には知られたくなかったが――。そこはもう、手遅れだ。そして、今夜、お前がセルディム=マグス=ファナムを追うという。クレムディルの仇だと知って尚、それを知ろうという。ならば――お前に託すべきなのだろう。クレムの、遺言を――」
「親父の……、遺言……?」
グラディルが呆然と見つめる国王の顔は、涙の気配も無いのに泣いているように見えた。
「…………それは……?」
「『弟が公国の禍となるなら、躊躇い無く討ってくれ』と」
「それだけじゃ、ないよな?」
グラディルが確信していた通りに、国王は頷きを返す。
「……ああ。『万が一でも救いを求めて来るなら、救けになってやって欲しい』とも」
「――――」
父と叔父の顔が脳裏に浮かぶ。
グラディルは無自覚に拳を握り締めていた。
「…………どうして、今まで――」
グラディルは信じたくなくて父の死を信じなかったが、それでも、聞くべき事柄だ。
もし、知ることが出来ていたなら――違う道行きが在った、だろうか。
「遺言だぞ? 教えれば、クレムディルの最期まで教えることになる。十になるかどうかの糞餓鬼様に、教えるわけにはいかんだろうが!」
単に、情操教育によろしくないから、だろうか?
想像以上のお子様扱いに、つい、いつも通りの反応で、グラディルはふてた。
「悪かったな! 糞餓鬼様でよ!!」
「死んだ」ということそのものを理解できない程、幼くはなかったつもりだ。
しかし。
「当然だ。上半身だけになって尚、息をしている――そんな状況、伝えられる方がどうかしてるわ!!」
吐き捨てるような、自己嫌悪の入り混じったガルナードの言葉は思う以上に当然だった。
クレムディルの死に様がそんな状態だったなら、確かに、見せるべきでも教えるべきでもないと思う。
「……今なら、いいのかよ?」
小父の鼻息は荒かった。
「当然だ。昨晩の状況を思えば、セルディムがクレムを殺したという事実を悪用してこない可能性は、縋る方が馬鹿を見る結果にしかならん。そんなことは御免被る!!」
大事に想われている。
そんな事実が心に忍び込んで来て、グラディルは泣かないことに苦労した。
「……母さんは……、このこと……?」
「知らぬはずが無かろう。最期を看取ったのは、彼女だ。口裏を合わせてもらったのは、俺の都合だがな」
「……父さん……」
滲む涙を手の甲で拭うと、グラディルはすっくと立ちあがる。
「……行くのか?」
「当然だろ。ファルの救出は俺の役目だ。誰にも譲らねえよ! それに、白百合の二つ名が不思議なくらい凶暴でも、王女様だ。私的な護衛の一人や二人は侍らせていて当然。……どうせ、すぐそこで待ち構えてんだろう。『遅いですわよ!!』とか何とか言いながら、ラリアットとか、飛び膝とか、バックドロップとか、見舞ってくるに決まってらあ! ……言っとくけど、師匠のせいだかんな? 慰謝料、ヨロシク!」
様にならないことを格好良く宣言すると、グラディルは国王に背を向けた。
しかし。
「――この、戯けが!!」
と、国王は背後からグラディルを蹴り飛ばしたのである。
「俺のセレンちゃんは白百合の名に恥じることの無い清純可憐の化身であるっ!! それを乱暴なお転婆の如く罵るとは何事かっ!!?」
すっかり、見慣れた調子を取り戻した国王に、グラディルに額に青筋が浮かんだ。
「……にゃろう……! 娘馬鹿にも筋金が入っているじゃねーか……!! んじゃ、賭けっか?! そこを開けた途端、俺を待ち構えている運命って奴がどんなものか!!」
八割以上の確率で勝てる賭けだと、グラディルは確信していた。
賭けの中身は、馬鹿らしいことこの上ないのだが。
「――ふん! さっさと救助にでも行くがいいわっ!!」
逃げた。グラディルはそう直感した。
つまりは解っている。自分の娘がどう育っているのかを。
グラディルの青筋が増え、勢いが増した。
「引き止めたのはそっちだろ!? 頼まれなくたって、行ってやる!! 覚えてろ、全治○○なんてつく負傷を貰ったら、その分の借金は踏み倒すからな!」
負傷に託けた借金棒引き宣告を聞き流すほど、国王は甘くない。
笑顔で青筋を追加した。
「はっはっは! クレム譲りのお前の体質で全治○○の負傷など、天変地異の直撃でも受けない限り、在り得るものか!! ――全額を弁償し、我が公国の礎として末代まで有難く拝まれる運命を、大人しく用意されるがいいわ!!」
「全力で、お・断・り・だっ!! ディム小父さんに頭を下げてでも、糞ったれな借金なんぞは絶対ぶっちぎる!!!」
「はっはっはっは!! 馬鹿め、くっちゃべったからには俺が先回りし――」
ふと、国王のテンションが素に戻った。
「そうか、そんなのも居たんだよな。俺達には」
「……あん?」
息まく弟子を、師匠はまじまじと見つめる。
そして、ため息代わりに、不肖の弟子を殴っておいた。
「忘れてどうする! セルゲートのあの気性を……!!」
噛みつこうとしたグラディルの脳裏には、或る日の景色が蘇っていた。
幼い頃のグラディルは、今のグラディルよりも、他人という物への警戒心が強かった。
信用できなかったからであり、傷つけてしまった結果、離れられていくのが怖かったからでもあった。
だから、言えた。
「俺に関わるな!!」
なんて。
しかし、まさか。
「寝言は寝てからにしてくれる?」
なんて切り返しが、びっくりする程綺麗な笑顔と共にこようとは。
普通、傷ついて混乱する物じゃないだろうか。
おまけに、言われた側よりも、言った側の堪忍袋の方が小さくて。
激昂して、殴りかかった自分に非はある。
でも。
異能で散々に反撃、蹂躙された挙句。
「……ねえ、もっと本気でキレてくれないかな? これから、予定を立てないといけないんだよね。勇者になるのが夢なんでしょ? だったら、〈力〉を御せるようにならないと。言っておくけど、君みたいな半人前以下は初めてだから。泣こうが喚こうが、修行は拒否させないよ。半人前は半端に放り出した時の方がよっぽど怖い事になるし、そっちの方がよっぽど傷つくんだよね。家の名誉とか、僕個人の矜持とか」
である。
それは在り得ねえだろ! と、5年は経過した今でも、速攻突っ込める。
おまけに、館の縁側での喧嘩はさっくりバレて、親父命令でこれまた速攻謝りに行かせられて。
ラファルドはラファルドで、グラディルみたいなのは初めてだったのだろう。
滅法、喧嘩腰だった。
「何? また来たの……? ――え? さっきの話??」
謝るつもりで切り出したのだが。
「ああ、関わるな! とかいう寝言のことね。却下。勝ち犬に指図する負け犬なんて、この世の何処に居るのさ。……何? 負けたのが納得できないの?? だったら、付き合うよ。何度でもね。ただし、今度は僕も本気で憂さ晴らしさせて貰うから。そこのところよろしくね、負け犬君」
である。
ラファルドもディムガルダから灸を貰ったとは気づかなかったし、(それを差し引いても)やさぐれる以外に何が出来たというのだろう。
「有難い時は神様ばりで、厄介な時は地獄の悪魔も真っ青。幸運か不運かで言えば絶対に幸運だが、国家予算クラスの借金を背負わされたが如き悪運も漏れなく付いて来る最強最悪の切り札――」
忘れたのか!? とばかりに、国王はグラディルを揺さぶる。
「俺にはディムガルダだが、お前にはラファルドだろうが!! ……あれは控えめに言っても、有難迷惑だ! 救助に行くのなら、間違ってもキレさせるなよ!? 道中のお前の行動次第では、120%キレる!! 性質の悪いことに、こっちの何もかもを見透かして、自分の無茶は綺麗に棚上げしてな!!」
グラディルは目を瞬かせた。
「……あれ? 何で、師匠がそんなこと――」
「解らいでか!! トラス、お前な、俺が何十年ディムと親友をやって来たと思っとるんだ?!」
「……え? そんなの、わかんねー……てか、つまりは師匠も――」
同じ事をやらかした過去がある、と白状したも同然だった。
「ば――、――あ。……いいか!! 誤解の無いように言っておくが、今だって親友なんだからな! ディムとは!!」
今更取り繕われても、後の祭りではないだろうかとグラディルは思う。
思い出さなくていいことを思い出した気持ちはすっかり、叱られに行く子供のそれだった。
「……そっか……、想像する以上に似た者親子なんだ……、あの二人……」
意気揚々と「助けに来てやったぜ、感謝しやがれ!!」と言い放った日には、「有難くは思ってるけど! 何、あれ!! こっちの心臓への負担をもっと減らしてくれないと、褒めることも出来ないんですけど!?」と反撃される気がした。
グラディルの脳裏に浮かんでいる想像が見えたように、国王の調子も一気に錆びついた。
「……う……、あ――いや、その……まあ、そうとも、言う、か――な?」
(〈力〉を使った無茶をするはずなので)釘を刺しつつ励ますつもりが失敗した――と、雰囲気で語る国王を、グラディルは振り返らなかった。
「……んじゃまあ、ちょっくら行って来るわ。大魔王が御降臨あそばされたら、骨、拾ってくれな」
「……あ、ああ。気を付けて、行ってこい……!」
揚々と去るべき後ろ姿は、すっかり意気を阻喪していた。
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