第38話◆兄として・・・改
文字数 2,445文字
小さくなっていく後ろ姿にため息をつく。
フィルグリムは現在、血族で一、二を争う能力の持ち主である。
いずれクリスファルトを下に
その為の修行も始まっているのだ。
正直な話、将来を見据えた自覚が欲しい所なのだが――。
(立場、立場、という訳にもいかないか……ファルみたいになったら、目も当てられないし)
弟と思いたくない迫力で
ラファルドは家出を選んだ。
だから、大事にするのだ。
だが、大事にするあまり――ラファルド曰く、『
弟の主張が解からない、とは言わない。
自身が館と(主に)宮城とを仲介する役目を
――と、自嘲すると父が怖い。
すぐ上の兄はデコピンをくれる。すぐ下の弟は口ごもってくれる。六番目より下の弟たちは読めない。異能がまだ安定しないせいも大きいだろうか。
そういえば、顔を見ないことも多くなった。
……館の差配も関係している――のだろうが……。
神祇も人間だ。神の力、その一端を
数多くの人間に支えられて生きていく事に変わりはない。
ラファルドと同じ理由で、クリスファルトはラファルドに同意し兼ねるのだ。
異能と背中合わせに生きていく血族を支えてくれるのは、異能を宿さない(もしくは、薄いと形容されるほど弱い異能しか持たない)家人達である。
彼らが時に
彼ら――館、が血族の為に砕いてくれる心を思えば、多少の我慢は――。
『兄上!!』
(……全く!)
感情が激している時でさえ、一言も淀まない。
だから、すぐに解る。
一番可愛気に欠けるのに、一番弟らしい五番目の弟。
自分が自分である限り、それ以上にもそれ以下にもならない困った奴。
けれど。いや、だから、か。
(反発するならするで、やり方を考えて
誰にでも語れる胸中ではないが、正直な話、楽ではないのだ。
宮城――ひいては国家、と館――神祇の異能が
請け負った役目なれば、責任は自分が取る。
けれど、自分を支えてくれる誰かが身内にも居て欲しい。そう思うのだ。
セルゲート家はセレル=アストリア公国において、王家に匹敵する権威がある。
だが、その立場は決して
異能者であるがゆえに
異能を特権か何かと勘違いして、
館の中では幅を利かせられる家人達も外では一般市民と同じ扱いでしかなく、国家という枠組みに縛られることになる。
特権ともいえる畏敬を集めるのは、異能者である血族だけなのだ。
世界も国家も館も守らなければならないのがセルゲートの血族に課された宿命。
ならば、兄弟で協力し合うのは当然の成り行き――だと、思いたいのだが。
「ルヴァルといい、ソラスといい……。もう少し、立場に
ふと、
(だから――か? だから、今の内に言えるだけの我儘を――?)
いずれ、自由は利かなくなる。だから、
(……ソラス、お前という奴は――!!)
腹を割って話し合った訳ではないが、これが本音だという確信が在った。
神祇としての養育は物心つくかどうかという幼い頃から始まるし、クリスファルト自身も神祇の一人なのである。
覚悟が在るなら在ると言ってもらいたい。解っていれば、そう無下にはしないものを。
(もう少し、
クリスファルトはため息をついた。
フィルグリムが館に我儘をぶつけるのは、クリスファルトが兄だからだ。
クリスファルトが選んだものを弟なりに感じているから、兄には我儘を言わない――信用しない、のだ。……兄の負担にはなりたくないから。
加えて、フィルグリムも感じている。ラファルドが言わんとしているのと同じ事を。
ただ――ラファルドと同じ選択はしないだろう予感があった。
弟は弟で、助けになりたいのだ。兄たちの役に立ちたいのである。
そして、兄は兄で弟たちを守ってやりたいのだった。
(……ファルはともかく……、ソラスはまだ就学児童の
「仕方ない。兄として
思案を始めた直後。
くすり、と笑う気配を
(
不覚を食わされたと
ところが。
「クリス、貴様! 他意の無い
「え――?」
ひらり、と受け身を決めて