第39話◆君(くん)、君たらずば・・・改
文字数 4,444文字
宮城の
それは――。
「何、セレンちゃんの挙動が
クリスファルトは主君の言葉を適当に聞きつつ周囲を探ったが、国王の近辺に
ちなみに、貴人として傍に人を
(……つまりは、脱走、か……!)
宮城内で発見できたことを喜ぶべきかと、一瞬血迷った。
国王の言う”挙動が怪しい”とは、男子更衣室に踏み込む王女のことである。
クリスファルトはまだ知らない。
「……だからと言って、娘
「気になるではないか!」
「……陛下!」
この時点でお灸確定である。
相手が国王という立場を持ってさえいなければ、落雷を直撃させるだけで済んだのだが。
「朝議は、
朝議とは一日で一番早く始まる会議のこと。
基本は午前五時開始で、終了時間は決まっていない。
三十分
今日に限って言えば、第三王女の宮城脱走とそれに付
「抜けた。
正確には、国王が張り
今日は
クリスファルトはため息をついた。
「……今ならまだ、言い訳が通ると思いますが? このままお戻りになる
出来れば、今すぐにでも呑み込んで欲しかった。
しかし。
「無い。今の俺には重大な任務が在ってな?」
「娘御の後を付けることの
けろりとしている国王を少し遠回しに
「気になるではないか!」
しかも、全く同じ返答を少し前に貰ったばかりだ。
(……同所の余地、無し。と)
実力で振り切られる前に、足止めをすることにした。
「東の
第三王女御一行様の行き先を提示した途端、国王はくわっと、クリスファルトに喰いつく。
「クリス、貴様に何が解ると!?」
(父親心の暴走――か……?)
クリスファルトが把握している限り、第三王女とその仕えの仲は友達のとにも到達していない。
探りを入れても骨折り
あながち、窮屈な
自分の都合と事情で
「解るのは、楽しく
おまけに、娘馬鹿を発症している国王は当の娘の仕えにラファルドが混ざって居ることを(
が、必ずやらかす。
当事者同士は割と
しかし、私的な事情を知らない側には
喧嘩同然の台詞の応酬に、間違いなく(喧嘩を
けれど、それは逆に不敬罪を食らわされることにしかならない。
忠心から奉公に勤しんで罰を食らわされる――言うまでもなく、不条理である。
余計な被害を産まない為に差配するのが近親者の一人として当然の
なのに。
「――な、何っ?! 公国の英雄との会食が楽しくない、だと――!! ……許せん! 余
(解ってるにしろ、解ってないにしろ……赤点で落第です、小父上)
憤然と立ちあがった国王の影を踏んで、クリスファルトは〈影縛り〉を仕掛けた。
「む!」
国王がじろりと
「…………」
クリスファルトは苦言をどうにか、ため息に隠した。
〈
これでも結構な忍耐を
臣下として、主君を断罪するしかなくなる前に、気づいて欲しかった。
執務をぶっちぎっているのだ、と。
朝議の会場では、宰相を初めとする文武の官が待ち
王が臣下に求める忠誠は、決して一方通行ではないのだ。
最後通告も兼ねて、せめて、実利を取ってみることにした。
「なぜ、邪魔をする!?」
「……娘を国外に
その件について、少し前まで王の間で
そこから察して欲しかったのだが――逆切れをされてしまった。
「親友の提案じゃなかったら、誰があんな
「でしたら、別の所から見
兄として当然の言葉に、小父はなぜか戸惑った。
「……いや、だって――親友の、提案――」
正確には、『なんなら、
なるほど、それはいい!! と、二つ返事で飛びついたのが真相だった。
『館を出た息子』の正体を知って、即座に後悔したのだが。
何時まで
「もっと正直に」
国王はついうっかり、普段通りの反応を返してしまった。
「うむ。
我に返ったのは白状してしまったことを自覚したから――ではなく。
王様という立場をすっかり忘れています、という自白を断罪するようなタイミングで登場した一群の人影があったからだ。
「おおっ! 陛下がかような所におわされたとは、何たる行幸か!!」
近衛騎士団長が逸材と目を掛ける部下の一人だ。
感情を
「――む、むぅ……。
「謀る以前の問題であられるかと」
朝議から脱走している。
それだけの事実が、どうして、今尚思考の
朝議に召集されるのは、国家という組織において、
朝議への列席は官僚にとってステータスの一つなのだ。
裏を返せば、
敵に回せば、人生に支障を
そんな保証をされている
現在、絶賛待ち
「な、何だと――!? ぬ、ぬぬ! このぉ!!」
力任せに暴れようとする主君の逃げ場を
「玉体、運ばせ
実直極まりない仕草で、機械顔負けの精確さで、一礼を
ただし、どの表情にも何処か人形めいた雰囲気があった。
真っ先に国王に声を掛けた騎士――捕縛部隊隊長、が号令
「クリスファルト様、
「
「は、謀ったな……?」
「可愛いけれど、可愛くない弟が居りまして。苦情を持ち込まれるのは遠慮しようと思います」
これは、クリスファルトの兄心が為す台詞。
そして。
「陛下の四肢はお
これは
公国最強の武人は国王。
それも魔王からも一目を置かれる、怪物じみた技量と才覚の持ち主である。
正面からだろうと、不意を打とうと、国王に
ならば、世界最強レベルの冒険者たちを駆り集めて師団を結成しても、無手の国王一人に壊滅させられてしまう。
身体能力、戦闘能力の両面において、
しかし、クリスファルトは
この場でお別れ、なのである。
となれば――。
どれだけ厳重に縛り上げても、神祇の異能による拘束を失った途端、
貴人の四肢を外す。
本来は粗相に入る
それでも、捕縛部隊が使命を
「抜かりなく。お心遣い、
「よし。くれぐれも
そして。
特大サイズの根付けのように整えられた、荒縄の
灸を据えたい
なので、巨大な根付けの端には
「――謀ったな?」
わなわなと震える公国の英雄にして主君には、誰も関心を寄せない。
国王捕縛部隊は本来、国王の警護役である。
だが、彼らの
主君の前で吐露される事は決して無いが、胸中では堤防を喰い破った洪水の如き感情が荒れ狂っているのである。
『我々のことを何だと
最後に、クリスファルトが”檻”の出来
「よし」
合格点の
「よしなに」
「はっ! 一同、クリスファルト様に敬礼っ!!」
担ぎ棒(鋼鉄製)が担ぎ穴に通された。
「謀ったな――?!」
国王は元来た(だろう)道を護送されて、あっという間に見えなくなった。