第21話◆教示・・・改
文字数 4,459文字
「悪・趣・味・だ。説教の後は、首が繋がるよう
「!!」
グラディルを
「それでも、これが最初で最後の可能性が高いから。言えることは今の内に、ってね!」
ラファルドはグラディルの
「……何だよ、最初で最後って?」
「連・座・制。さっきは君が気にしてたでしょ。実際、今日みたいなことが何度も在ったら、僕も君も首が飛ぶからね。物理的に」
グラディルが目を丸くする。
「マジで……?」
「マジで! ……まあ、僕達はそうなる前にとんずらするから、心配ご無用! でも、他の人たちはそうはいかない。今日の一件を皮切りに――」
ラファルドの口調は他人事のように軽い。
真剣の比重が治療に傾いているからだと、グラディルは解っていた。
回復させるだけなら一瞬で済ませられるのに、診察するという一手間を決して抜かない。
そんなだから安心して任せられるし、お人好しが過ぎると煩わしくもなる。
そして、そんなだから友人の中でも特に代えの利かない一人になってくれるのだ。
ラファルドが手を抜かない以上、グラディルも気を抜かない。
見つめる目は睨みと誤解されかねないくらい険しく見えた。
「笑えねえだろ、それ」
「なんてことにならない為にも、騎士団はどういう風に解決しなければならないのか――解るでしょう?」
「おう。騎士団がどれだけ有能で、怖い組織なのか、を見せつける。二番煎じも模倣犯も
騎士の目が一瞬、グラディルを
衛士の中には感心している者さえいた。
「正解。卵でも軍人なんだから、簡単過ぎたかな?」
治療完了の証として、グラディルの腹を
「騎士団に恩を売るとは、騎士団に協力して、是が非でも感謝と尊敬を勝ち取ること――なんだけどねえ……。聖堂の敷地から逃げ出す直前のこと、覚えてるよね?」
「……ああ。確かに、よろしくねえ。でも、一人ぐらいなら――って、考えるんじゃね? 単独犯じゃなかったし」
セレナスの王女という立場を意識した、騎士団の行動予想だった。
サマトが冷静に補足する。
「現状、30名を超えております。聖堂内部で蹴りが付かなくとも、逃がすつもりは無かったようでして」
前線を外から取り巻く後続は獲物を観念させる荒縄であり、外からの横槍を警戒する鳴子だ。
その仕事をさせなかったのは、騎士団の表に出ることの無い勤労の成果である。
「とりあえず、十分じゃねえか?」
グラディルにラファルドは苦笑を返した。
「……うーん……。作戦って、一から十まで、全員で共有する物だっけ?」
「んなわけねーじゃん。伝言ゲームの
「じゃあ、その頭に相当する人。
グラディルは首を傾げる。
「今日みたいな連中だと、無理……じゃねえかなあ。実力=人望だろうし? 頭でっかちは妙に嫌われや――あ!」
察したグラディルが息を
「誰が頭で、誰が手足か――。全員は無理でも、多少の見当はつくでしょう。経験則とか在るでしょうし。どうなんですか? 大尉」
全然可愛くない糞餓鬼を前にしているとは思えないほど、ラジアムの顔は渋かった。
「無茶を言わんで下さい。内偵済みなら、こんな真似自体させませんよ」
そして、ラファルドは改めてセレナスに向き直る。
「お解かりですか? 殿下。今日の出来事は、騎士団にとっても想定外。先程、殿下を止め損なっていたら――どんな事態になったことでしょうね?」
声に籠る剣呑さとは裏腹な笑顔を、ラファルドは浮かべた。
「……、解るものですか!」
セレナスは嫌そうに顔を
「迷宮入りです」
「――な!?」
ラファルドは視線だけでセレナスの憤激を縫い止める。
「事件――彼らの視点に立てば計画でしょうね、の
ラジアムは慎重に
「潰し間違いは即、解決失敗。治安維持を担当すれば誰でも経験すると言っていいでしょう」
「あの男が頭だという証拠が何処に在りまして!?」
「殿下、逆上されましたよね? 偽者だと断定されて」
「……!! それが、何だと――」
ラファルドから表情が消えた。
「
「そんなわけないでしょう!!
「では、あの男は何処で見知ったのでしょう? 本物の殿下、を。偽者だと断言するには、本者を知っていなければなりません。十全の見識とは言いませんが、見た感じ、裏街道の一組織。それも下町に巣食う程度の。よく耳にされるとは思いますが、「住む世界が違う」と言っていい。なのに、殿下の
「
「それは、騎士団の仕事です。けれど、もう、お解かり頂けますね? 騎士団は追い込まれてしまっている。まさか、王族の個人情報が外部に漏れているかも、とはね。王都の治安維持は騎士団の管轄だと言うのに、とんだ管理不行届きです。下手をしたら、陛下の枕の高さにすら、関わるかも知れません」
「――――」
セレナスは勿論、誰一人として異論を挟めなかった。
「こんな現状で、風を食わされたことが発覚する。確実に、誰かの首が飛びますね。物理的に。王族が
「!! ……それ、は……」
セレナスが青ざめて行く。
「騎士団は事件を解決せねばなりません。事件を把握せねばなりません。二度と同じ事が起きないように。万が一が在るのなら、より柔軟に、より十全に対処可能なように。その為には一つでも多くの情報を集め、
「――――!!」
「割に合わないことです。首を飛ばされるのは指揮官――有能さを見込まれて、将来に期待を掛けられた人物です。人材を体面の為だけに処刑して、それでも不安と不穏は
「…………」
セレナスは
それを待っていたように、ラファルドは
「では、お
「――私が、軽率でした――」
ぼろり、と涙がこぼれる。
「!!」
騎士団員が一斉に動揺した。グラディルでさえ、例外ではなかった。
それなのに。
「結構です!
ラファルドは整然と一礼すると、王女に背を向けたのである。
グラディルの方が
「――お、おい!」
「大丈夫でしょう? ベテランの
「…………うー……、でも、よ……」
気まずい空気を職務という名の
徒歩と駆け足が乱雑に入り乱れる中、遠くから
「――サマト! サマト!?」
「だ、団長――!!」
馬上から名前を連呼する騎士に、サマトは手を振り返す。
もっと早く来て欲しかった、と
(……へえ、あれが近衛の
腐れ
自分も大概、意地っ張りだのなんだの言われる方だが、時に自分以上に融通を利かせないのがラファルドである。
近衛騎士団長ぐらいの権威や貫禄で恐れ入ってくれるかどうかは疑問だと思った。
「こんな場所に馬で、なんて――」
ラファルドが眉を
魔法や異能と
馬を持ち込んでももう安全、という判断があり、近衛騎士団長という立場に付随する
「おう! サマト。殿下は!?」
「御無事です! ……ですが」
「?」
サマトが
気がついて息を呑むと。
近衛騎士の長は困った顔でラファルドを
「しでかして下さいましたな……!」
ラファルドは平然と受け止める。
「おや? 廃嫡確定の方がまだマシ、とは意外ですね」
(……やっぱりー!)
真っ向から冷たい視線を
グラディルはハラハラする心情を何とか隠している。
視線を外したのは、近衛騎士団長が先だった。
「申し開きは、どうぞ、陛下の
「治る見込みの無い
ラファルドを無視して馬から
「さて!
すれ違い
「……おい?!」
グラディルが巻き添えを食ったことを詰め寄る。
ラファルドはさっさと治療を始めていた。
「大した事じゃないよ。立場上、面と向かって褒めるわけにはいかないでしょう?」
ラファルドが埃を払うようにグラディルの二の腕を叩くと。
「
結構痛かったのに、殴られた痕さえ綺麗に消え去っていた。
「下手人を
グラディルを邪魔だと言わんばかりに押し退ける。
「そりゃ――、――おい?」
「何で、わざわざ……」
グラディルは一瞬だけ近衛騎士団長の背中を追い、ラファルドに視線を戻す。
「何が
「申し開きって、
「……
見逃すまいと見据えるグラディルは歯牙にもかけない。
「……まあ、在り得なくは無いか(しでかした――ね。だったら、どうして事前説明も何も無かったんだか)……!」
空は変わらずに青い。
しかし、太陽は雲に呑み込まれた後だった。