第29話
文字数 214文字
私、『魔笛』の主人公のタミーノ王子になって、ザルツブルクの街を歩いている。
火山が爆発したらしく(ザルツブルクに火山はない)、空が白く、ぱらぱらと石と灰が降り、みな走っていく。私だけが歩いている。
あの白い石と灰が森に落ちたら、燃えてしまう、と思いつつ、それでも私は、川を渡る橋へ向かって静かに歩いていく。
橋の向こうに旧市街が、その背後に小高い山が見える。まちがいなくザルツブルク。
ただ、見えない火山が噴火している。
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