第28話

文字数 763文字

 二週間ぶりに夢。
 どこかからどこかへ、真澄さんと帰る途中。
 遅くなってしまって夜で、着いてから何か食べるか、いま乗り換え駅で降りて食べるか、二人で迷う。
 
 駅は巨大で、数十人並んで登り降りできそうな薄薔薇色の石の階段が交差している。
 駅というより老舗の劇場か百貨店のよう。
 それでいて、人の気配がない。

 とにかく往来へ出て、真澄さんがとほうにくれた顔で見まわすと、イタリアンらしきレストランがある。木立をめぐらせて、そこに細かなレースのような電飾を這わせてある。木のシルエットが夜空に黒い。
 ここで食べていこう、と真澄さんが決める。

 その少し疲れた横顔がよすぎて、私は正直、話なんて聞いていない。
 
 でもレストランはものすごく混んでいる。木立の横が小路になっていて、つきあたりのはきだし窓から、中の混雑が見える。
 真澄さんが「見てくる」とその小路を行ってしまい、私はこまって、いそいでメインのエントランスに回ると、何か精力的な感じのギャルソンさんに
「すみませんいまちょうどラストオーダーで」
と、ぴしりと断られる。
 
「ごめんなさい、三十分でいいです。もう連れが先に入ってます」と必死で言い、けげんな顔のお兄さんを突破して無理やり中に入ると、真澄さんがちゃんと席を確保して待っていてくれて、長いテーブルの相席なのだけど、かえって真澄さんの隣にくっついて座れて、
 
 ギャルソンさんにご注文はと訊かれて私は、とにかくのどが渇いたからオレンジジュース、それもしぼりたてでオレンジのくし切りが丸いグラスのふちにはさんであるやつ、と思っただけか、口に出して言ったのか、とにかく、
 
 メニューも黒板も見ないで真澄さんの顔ばかり見ている、メニューをめくる彼の手、彼の指。ご注文は以上で? とギャルソン氏。私は空腹。空腹で、たえられそうにない。

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