第22話

文字数 707文字

 緑に囲まれた、白い漆喰の建物。前にもいたことがある。
 学校だと思っている。 
 石畳の坂道が濡れていて、遊歩道になり、木立の中へと続いている。
 
 私はたぶん、音楽や、文学や、好きなことを好きなだけ学んでよくて、そう許されているだけで感動している。ここが楽園なのかもしれない。
 
 遊歩道の脇に、小さなみやげ物屋があり、ビーズの編みぐるみのような、それほど可愛らしくもなく役にも立たない物をたくさんつるして売っている。
 室内にも緑があふれ、温室のようだ。つる植物が多い。
 
 落ちついた色のサイドテーブルに、新聞や雑誌を入れる棚がついていて、そこから私はなにげなく書類を引き出す。
 するとそこに、その《学校》の上級クラスの合格者名が、数名まとめて書かれてある。
 私の名前はない。
 
 そもそも、応募していなかった。応募の時期を逃したのだ。
 そう気づいてがくぜんとする。
 誰かが横で、ミムラさん、どうして出さなかったの(応募書類)、と、半ば残念そうに、半ばからかうように言う。
 
 私よりはるかに年下の人たちが、みんな名簿に名をつらねていて、彼らの数名はいそがしく横を通りすぎていく。上級クラスどころか、とっくに卒業して、もうスタッフ側に入っているのだ。
 私は何をしているのだろう。お情けでだらだらとここに置いてもらっているだけではないか。
 身を切るようなふがいなさ。
 
 石畳の遊歩道に、ひとすじの水が流れ、そのためになめらかな石のつらなりが濃い藍色に濡れている。
 
 そのときはひたすら、ふがいなさ、はずかしさ、なさけなさしかなかったが、

 起きてから考えたら、合格して立ち働いている人たちは、みな輪郭が白く、ぼうっとしていた。

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