第56話

文字数 293文字

 皮をむいて二つ三つに切ったバナナにチョコレートを細くかけたのを、白い平皿ごといくつも冷やしている冷蔵庫。
 レストランのそれらしく、四面がガラスの細くて縦長のケースだ。

 薔薇色の日よけが陽に透けて、店は盛況なのだけれど、そのバナナがみょうに不ぞろいでぞんざいで、しかもデザートはそれしかないのを、私はひどく悲しく思っている。

 ガラスを開いて平皿を二枚三枚かるがると持ち出していく、しっかりとした腰つきのギャルソンは、私ではないので、
 それなら私は客なのかというと、
 ガラスケースは目の前で閉められ、私の口にバナナは入らない。

 だからたぶん私は客で、ただ、誰にも私の姿が見えていないのだ。

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