第69話

文字数 425文字

 長くて確かな夢を見たのに、起きたら忘れてしまった。たぶん、覚えていたくなかったからだろう。
 その最後の部分。

 後宮で選ばれるために、自分の書いた文章を人前に、というより空中に、さらされなければならなかった。
 ウェブのように横書きで、クリーニング店でもらった黒いプラスチック製のハンガーに吊るされている。

 数ヶ所訂正があって、ぶじ採用されたようだけれど、釈然としない思いだけが残っている。
 だから私は靴を脱いで片手に提げ、屋上から屋根づたいに脱出する。

 はだしの足裏にひんやりと湿ったコンクリートを感じつつ、パンプスをぶらさげて歩いていく。あたりは淡い赤紫の夕映えに曇っている。その水蒸気があちこちのビヤガーデンから立ち昇るものだと、なんとなくわかる。
 人の姿は見えないけれど、皆くつろいでいるのがわかるから、逃げる私もくつろいでいる。

 選ばれるかどうかは問題ではない。
 役に立つかどうかなど問題ではないのだ。


※ほぼ、起きてすぐ書いたメモのままです。

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