第111話

文字数 770文字

 ひさしぶりに夢。二週間半ぶり。
 長い長い夢の最後。
 みんなで学校に閉じこめられている。台風が来るから帰れなかったのだ。

 私は、魚眼レンズのように、校舎全体をゆがんだ視野のなかにおさめているのに、たしかにその中にもいて、迫る台風に緊張している。
 学校なのに、時代劇のセットでもある。

 危ないから電球を外しておこうということになる。
 それが丸い白熱灯ひとつ、お堀ばたの柳の人力車が行き交うあたりの上にぽつんとある白熱灯ひとつ外そうとしていて、それなら天井があるのかというと、ない。
 ただ迫り来る台風の予感のなかに空は低く立ちこめて、私は電球を外そうとしている。

 私はなんだか町娘のような、縞の(つむぎ)か木綿を着て赤いたすきをかけている。
 電球を外すなんてしたくないのだけど、誰も代わってくれないから、お堀ばたに置かれた荷台の上によじ登る。
 この荷台は中央が焦げたようにへこんでいて、厚揚げの大きいのを思わせる。しかも足場としてはぐらぐらして、あと少しで私には電球に手が届かないのだった。
 あーあ、とがっかりしてみせながら、やっとこれで誰か助けてくれるんじゃないかな、とひそかに期待する。

 はたして、法被(はっぴ)を着た月代(さかやき)のきれいな若者(誰)が、助っ人として荷台に飛び乗ってきた。あぶないあぶない、降りてください見ちゃいられない、などと言っている。
 私は降りようとしてよろけて、その人に体重をあずけそうになり、下で見ている野次馬たちにやんやと言われる。
 若者は難なく私を抱え下ろし、電球もちゃっと外して、慣れないことをするもんじゃありませんなどと私を叱る。私は嬉しく叱られている。

 次は何をしておこうという相談になって、

 いよいよ大粒の雨が空を叩き始めた。
 空から雨が来るのではなく、この空は作り物で私たちを覆っているから、雨はその上から叩きつけてくるのだ。

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