第41話

文字数 1,005文字

 長い夢の途中から。
 
 広い道路の、夜も更けてすっかり人通りが絶え、車もまばらなところを、同窓の友人たちと歩いて駅に向かっている。
 ゆるやかな登り坂。左手に高速へ向かう高架が、より大きな傾斜で登っていく。暗い中、何もかもカーブしている。
 同窓と言っても高校やら大学やら、私が別々のところで出会った人々が混じっていて、本当はあり得ない。
 
 一人のちぢれ毛の女性に私は話しかけられ、どうやらボウリングに誘われているらしい。今夜は実家に帰る、母と祖母が待っているから遅くなれない、と私が言うと、その人はなあんだと言って立ち止まり、そのまま背後で、貼りついたような笑顔で手を振っている。彼女とはここで別れるのらしい。
 誰。
 たぶん大学の同級生のミチルさんだ。
 私の人生でなんとなく疎遠になった人は多いけれど、はっきり関わりを絶った数少ない人の一人で、なぜいま出てきたのかわからない。
 
 ふりかえった瞬間だけ、街並みが城北のさびしい住宅地になっている。
 空き地に雑草の茂っているような。
 
 いそぎ足で皆に追いつくと、明日早いの? と訊かれ、私は、うん、イギリスに帰ると答えている。一呼吸置いて、今回帰って向こうを引き払って、それで本当に日本に帰ってくる、と言っている。言いながら、そうだったんだ、と思っている。
 自分でも何のことかわからない。
 
 歩いている仲間は女性が多く、誰かがケーキが食べたいと言い出し、そんなの六時で閉店してるでしょう。レストランでフルコース食べてデザート頼むしかないね。と私が言って、みんなきゅうににぎやかになる。
 私の口の中にすでに濃厚な焼きプリンの味がする。
 
 レストランに入ることになった。もう食事を終えた帰り道だったはずなのに。しかも、レストランのはずなのに、場末のラーメン屋のような分厚いビニールカーテンをくぐらなくてはならない。
 くぐるとまたごちゃごちゃと立て込んだ入り口の、大きな段差を昇らなくてはならない。
 
 私が昇ろうとしていると、背後から大学の同級生のタケダさんがひょいと追い越していくから、
 ふつう手を貸さない?
 と恨んでみせると、タケダさん、黙って手を差し出してくれる。隙のないのが小憎らしいけれど、彼らしい。その手にすがって段差を乗り越えようとすると、
 
 乗り込えられない。
 足が上がらない。
 がくぜんとする。
 私、筋肉のない脂肪のかたまり?
 
 ここで唐突に夢が終わる。

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