第1話

文字数 1,010文字

 これが初夢なんて悲惨。

 初めは素敵だったのだ。
 真澄さんと私は外国の街にいて、ぶらぶら歩いて、朝食を食べるカフェを探している。
 ひとつ見つけて入っていくと、中が広くて空席がたくさんある。空は少し曇っていて、日よけがあせた山吹色。
 子どもたちがたくさんいてテレビを見ている。

 このあたりから、真澄さんがいない。

 私はつまらなく思って、テレビから遠ざかろうとしたら、呼ばれる。
 友だちのロコちゃんが、白いふわふわのクリームにホワイトチョコレートを削ってふりかけた素敵なケーキを持って微笑んでいて、遅くなっちゃってごめんなさいと言って、誕生日カードを渡してくれる。
 見ると、透明なシートに絵を描いて重ねあわせた、凝ったカードだ。ロコちゃんはさっきの子どもたちをお世話していて、彼らは難民の子どもたちで、その手作りらしい。
 私、嬉しくて泣いてしまう。私の誕生日から二ヶ月たっていて、もう四月だけど、そんなことかまわない(これは初夢で、私の誕生日は二月)。

 そのとき、きゅうにサイレンが鳴って、戦争が始まる。

 誰も驚かず、私も驚かず、静かに行動する。
 皆それぞれ荷作りを始める。私、泊まっている部屋の、なぜかそれがいまのカフェの奥にあるのだけれど、そこに駆けこんで、荷物の全部は持っていけないから、トランクからまず服を引っぱり出すと、黒いTシャツの背に見たことのない文字が浮かびあがる。とにかくそれをたたんで、ピンクとグレーの下着もたたんで、カバンに詰める。この国で買ったらしいエキゾチックな刺繍の絹の手さげが壁にかけてあるけれど、持っていけない。泣きそうになりながら、

 きゅうに変わって、私、その建物のさらに奥に迷いこんでしまっていて、そこでさっきのテレビの続きを見ている。
 たあいもない子ども番組だったはずなのに、画面では激しい戦闘がくりひろげられていて、味方の戦艦に敵の飛行機が上空から焼夷弾を浴びせていて、それが死んだセミに蟻がみっしりとたかるように、もうどうしようもなく圧倒的な爆撃なのだ。

 がらんとした館内に最後の見回りの男の人たちが歩いていて、私を見つける。
 私、大丈夫です連れていってくださいと落ちついて言ったつもりだけど、手がふるえてものが持てない。
 とにかく出口まで連れていってもらう。複雑な渡り廊下。

 さっきのカフェに戻る。
 もう誰もいない。
 日よけだけがそのまま、あせた山吹色。

 がらんとした灰色の広場。

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