第127話

文字数 825文字

 紀伊國屋ホールで公演が打てなくても、正直、とくに残念ではない。
 私たちの出世を楽しみにしてくれていたシュウさんには、生きているあいだに期待どおりの雄姿を見せてあげられなくて申し訳なかったけれど、じつはミヤザキさんも私も、大舞台に執着はない。
 負け惜しみじゃなくてね。

《ショーガール》という伝説の舞台がある。(現実)
 細川俊之さんと木の実ナナさんの、年に一度だけの二人芝居だった。
 十四年続いて、設定は毎年ちがったらしい。男と女が落ち合ってわちゃわちゃして、とにかくたのしい。

 いつかああいうのがやりたい、と言ったら、ミヤザキさん、大賛成してくれた。

 もちろん、木の実ナナさんはあくまで憧れで、私は逆立ちしたってああはなれない。だいたい、逆立ちできない。
 でもミヤザキさんは、もしかすると細川俊之、行けるんじゃないかと思う。細川俊之さんが《千駄ヶ谷のアラン・ドロン》だから、ミヤザキさんはさしづめ《駒込の細川俊之》かな。意味不明。

 そんなことをたのしく考えていたら、一度、本当に夢を見た。
 ミヤザキさんはタキシードで、私は真っ赤なドレス。スカーレット・オハラ、いやいや、借りたドレスでコンクールに出陣する野田恵(のだめ)ちゃんみたいな。
 ミュージカルらしくて、二人ともずっと歌っている。夢のなかだから私たち、二人ともめちゃくちゃ上手い。

 ところが、歌詞というか、ストーリーが、
 私が家のなかを片付けられなくて、どうしたらいいの~と嘆いていて、ミヤザキさんがはげましてくれているのだ。
 どうやら私はスカーレットのドレスのまま、ミヤザキさんの助けを借りて汚部屋の断捨離をやりとげ、ハッピーエンドになるらしい。
 やっぱりのだめ??

 ミヤザキさんに「こんな夢を見た」と話したら、大乗り気で、タイトルまで決まってしまった。
《片付けられない彼女と僕の八日間》
「なんで八日なの?」
「なんとなく」

 八日間はきついなー。せめて九日間。

 誰か作曲してくれないかなー。^^

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み