第109話

文字数 517文字

 その前に見た夢。
 両親と私が、弟と、弟が連れてきた女の人に会っている。
 女の人は私の昔のクラスメートのミサコさんに似ていて、大人で落ちついている。私の尊敬する才女。

 二人は幸せそうで、弟は照れてそわそわし、ミサコさんは晴ればれとしていて、誰も何も言い出す前に私は、
 もちろんミサコさんみたいな素敵な人が家族になってくれるなんて夢みたい、
 と言う。
 両親もそれでほっと肩をゆるめて、場がなごやかになる。

 そのとき弟が嬉しそうに、じつは、子どもができたんだ、と言う。

 それを聞いて私はなぜかきゅうに青ざめ、一転して二人をなじり出す。
 それは順番が違うでしょう?
 四人があっけにとられる中、私はどうしようもなく泣き叫んで、弟を責める。
 ミユキさん(義妹)がかわいそうでしょう?

 弟の背中のあたりから場違いな音楽が流れ出していて、ニュルンベルクのマイスタージンガーのような、何かの式典の序曲のような。弟が腰にしばりつけたトランジスタラジオから流れてくるのだった。
 私は腹立ちまぎれにそのラジオを引き抜こうとすると、抜けない。

 ラジオのアンテナに薄汚れた手ぬぐいが結びつけてある。
 血がついているらしい。


※弟はミサコさんと一面識もありません。

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