第79話

文字数 294文字

 父が逝った。
 現実。

 あと三日くらいは、大丈夫なのではないかと思っていた。
 思いたかっただけだ。

 でも、数日ぶりに安定して、落ちついていたのだ。
 はっきりした声で、くりかえし、しつこく、母と私に、疲れただろうから、家へ帰って休めと言った。
 だから帰ってきたんじゃない。お父さん。

 夜、ふたたび苦しみ出し、身の置きどころがない、と、うったえたそうだ。
 身の置きどころがないと。

 深夜零時半に、母から電話を受けた。
 私の自宅から病院までは電車を乗り継いで一時間。もう電車はない。
 車でも一時間。
 弟に頼む。
 最寄りの駅前で待ち合わせた。駅で三十分待つ。

 二〇二〇年七月二十二日、午前零時半。

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