第45話

文字数 637文字

 それほど広くない食堂で、皆で食事している。
 どうやら、実家のダイニングに無理やり長テーブルを二つ縦に入れて(絶対入らない)、そこに白い布をかけて、にわか作りの食堂らしい。
 
 揚げ物など。
 私、ふだん揚げ物はほとんど食べないのに。
 そして私、立っていそがしく席を移動して、いろんな人と話している。
 ふだんそんなことしないのに。
 
 細長く作られたテーブル席の、向かって右の中ほどに、真澄さんは座っていて、静かにビールを飲んでいる。
 その隣に私は行きたいからうろうろしているのに、行けない。
 
 がやがやとした話し声を越えて、真澄さんの小さな声がはっきり聞こえる。
「ここに居なきゃならないから」
 そして、静かに、自分の席を叩いてみせる。 
 そして、静かに、でも私にはっきり聞こえるように言う。
「居たくでもないけど」
 
 その声ににじむ悪意が、真澄さんらしくない。
 
 本当は私に隣に来てほしいのだとわかって、はっと嬉しいけれど、 
 その冷ややかにえぐるような、吐き捨てるような、もだえるような怒りとあきらめに、私の胸の奥も冷たくなる。
 あれは真澄さんではない。真澄さんはあんな人ではない。 
 あれは、私が造った真澄さんだ。
 
 いつのまにか食卓の上に揚げ物の皿もなく、顔のわからない会食者たちの輪郭も薄れていて、
 テーブルをへだてて私は立ち、真澄さんは座っていて、
 真澄さんは、喪服を着ている。
 いや、むしろ、礼服。披露宴などの。
 ジレが華やかなシルバーグレイだ。
 
 深夜であるらしい。

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