第97話

文字数 875文字

 起きてから二時間くらいして、ひさしぶりに夢を見たことに気がついた。思い出せるかわからないけれど、いそいで書く。

 私は長距離列車に乗って、大陸を渡っている。窓の外に大きなぼたん雪が降りだして、心細い。
 これから言葉のまったく通じない国で降りて、学生として暮らさなくてはならないのだ。

 列車が停まり、降りると、駅じたいが小さな溶鉱炉のようで、さかんに石炭をくべている。
 ただしあまり熱くない。係の人たちがスコップですくっては投げ入れている石炭も細かく柔らかで、薄紅色で、積もった桜の花びらのようだ。

 駅舎から外に出るか出ないかのところで、もうそこが目的地の学校。カフェテリア。
 私はまだ何も食べていないのに、食器のトレイを下げに歩いていき、紙くずの捨てかたがわるいらしくて叱られる。あんのじょう言葉がひとことも聞き取れなくて、叱られていることはわかってもどうしたらいいかわからない。

 すると、同級生が二人、私を見つけて大歓迎してくれる。ハグしあう。
 私はほっとして喜ぶけれど、どちらも誰だか思い出せない。
 しかも一人はひどく背が小さくて、私の膝くらいまでしかない。驚いて、下がって見てみても錯覚ではなくて、やっぱり膝までしかない。
 とりあえずハグしあう。

 土を盛り上げて小山のようにしてそこに芝生を植えて、まだその芝生が定着していないような感じのところに、さらに優秀な同級生がいて、彼はもう余裕で作曲している。トイピアノで。
 するとここはやはり音楽学校なのか。
 長身の彼はすらりと飛び下りて、私をふりかえって微笑む。ついてこいという意味らしいから、私もついていく。

 彼は他の人たちとも流暢な現地語で談笑している。フブキくんらしい。
 ハンガリー語?
 でもそれよりこの学校が、どう見ても畜舎であることのほうが気になる。
 さっきからさかんに火にくべられている柔らかな花びら、あれは何なのか。私も花をくべる係になりに来たのか、それとも花をくべられる側なのか。

 この二択、前にも悩んだことがある。


※悩んだことはないのかもしれませんが、たしかにそんな気がしました。

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