第107話

文字数 580文字

 とてつもなく広いなだらかな浅緑の丘陵地に、トイレがある。たくさんある。
 大小、和洋さまざまな形があって、選びほうだい。

 誰もいない。
 それでも、できるだけ奥の、本当に誰もいないところに行かないとはずかしいと思って、ひとつずつのぞいていく。

 やっと、これにしようというのを決めて、それはもう小高い丘の頂上でまわりを広々と見渡せるのだけど、そこに決めて腰を下ろそうとして、ふと見ると、
 すぐ隣、というのは五メートルほど先のテーブルで、品のよい白人のご夫婦がディナーを待ちながら、ワインを召し上がっている。

 ご主人のほうと目があってしまう。
 俳優のジャン・レノ氏ではないかと思う。

 さすがにこれはまずいだろうと思って、腰を下ろすのをやめてうろうろと見回すと、さっきまで見渡すかぎり並んでいたトイレが、どれもこれもテーブルに変わっている。
 それぞれにろうそくが灯される。暮れてきたらしい。

 どのテーブルにも空きがない。
 私はどこへ行けばいいのだろう。
 もう選ばないから、空いているところに座らせてほしい。

 それにしても、テーブルはひとつひとつみな違って、形も大きさもしつらえも。木のどっしりした一枚板など。
 食べ物はまだ乗っていないけれど、どれも素晴らしい。


※文中のジャン・レノさんはもちろん私の夢の中のジャン・レノさんで、現実のジャン・レノさんとは関係ありません。

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