第147話

文字数 452文字

「ツジさんの夢を見た」
と、ミヤザキさんが言う。

 ツジさんはミヤザキさんの先輩の俳優さんだ。
 去年の暮れに病を得たと知らせてくれたきり、音沙汰がなかったらしい。

「それがね。
 ツジさんに、脚があるんだよ」

 ツジさんは、事故で片脚の膝から下を失い、義足だった。

 ああ、そういうことか、と、夢の中でミヤザキさんは思ったのだそうだ。
 そうか。ツジさん、もう、義足がいらなくなったんだな。
 向こうの世界に、行ってしまったんだな。

 ミヤザキさんが涙ぐんでいるので、私も、つい、もらい泣きする。
「いい人だったね。
 亡くなったの、いつ?」

「知らない」
 え?

「死んだかどうか知らない。聞いてないもん」
 は?

「訊きなよ!!」
「だって怖くて訊けない」
「何が」
「だって、生きてたらめんどくさい。
『なんでずっと電話くれなかったんだよ』ってさんざん責められるんだよ、絶対」

 考えたら、もしツジさんが亡くなっていたら、演劇仲間からすぐミヤザキさんに連絡が入っているはずだ。
 まったくもう。
 さっき私の泣いた分の涙、返して。ほんと損した。

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