第21話

文字数 647文字

 畳敷きの大広間にたくさんのお年寄りがいて、両親と私がいる。
 にぎやかにくつろいで、いそいそと立ったりしていて、どうやら浪曲か詩吟の発表会らしい。
 
 モニターに映って歌っている人が、ふと見ると亡くなった大叔母そっくりで、大叔母のはずはないから目をこらすのだけれど、ますます大叔母に似ている。
 父母に、ほら、といって指すと、彼らも驚き、感慨深げで、三人で画面を見守る。
 大叔母の髪は黒々として、生前好んで着ていた薄紫の着物を着ている。
 
 ところが、
 私の手もとに美しいティーカップがあって、それは昔わが家で使っていた、緑と、オレンジと、レモン色のガラスのカップとソーサーのうちの緑のセットで、柔らかな(ぎょく)のような、アメリカのファイアウェアのような美しい品で、私はそれが大好きなのに、
 なぜか手にしたナイフをそのソーサーに押しつけて、傷をつけているのだ。
 
 薄緑のソーサーは柔らかく、チョコレートを刻むように傷がついてしまう。
 私は絶望しながら、なおも刃を押しつけ、傷はどんどん増えていく。
 指でさわってみると、柔らかな釉が削られ地肌のガラスが見えていて、とりかえしのつかないことがはっきりする。
 半泣きになりながら、こんなことしちゃったと言って母に見せると、母は驚きあきれ、どうしてそんなことするのと言う。
 
 次は大叔母の出番らしい。
 母と父は、さ、行きましょ、うん行こう行こうと言っている。 

 私は傷だらけのソーサーと刃物を手にしたまま、涙が出ない。


※大叔母は詩吟を習ったことはありませんでした。

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