第125話

文字数 430文字

 ソノさんとミヤザキさんは同郷で、広島だ。酔うと、二人ともお国言葉が出る。
 たまに。

 私にしたら、どうして「たまに」なのかわからない。
 もっと広島ことばでしゃべってくれたらいいのに、東京人の私がいるせいで、なんとなく標準語になってしまうらしい。
 これがなんとももどかしい。

 私がお手洗いに立つと、そのあいだ二人は「ほじゃけえのう」とかしゃべっているらしい。私が戻る瞬間まで。

 そんな。

 東京生まれ東京育ちの私には、ふるさとの言葉があるのはとてつもなくうらやましい。自分が根なし草のような気さえする。
 だからお国言葉のある人がお国言葉で話すのを聞くのが大好きなのに、私がそこに来ると、とたんに二人ともお国言葉じゃなくなっちゃうのだ。
 ひどい。こんなの、シュレーディンガーの猫じゃないか(たぶんちがう)。

 身もだえしてくやしがる私を、二人はふしぎそうに見ている。
 このくやしさ、さびしさ、私だけがぽっかりと宙に取り残された感じは、二人にはわからないのだろうと思う。

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