第23話

文字数 867文字

 ひさしぶりに夢。三週間ぶり。
 遠足らしい。
 初めから大きな美術館の中にいる。美術館と思っているだけで、駅なのかもしれない。
 天井が高く、やたらと人が動く。巨大な展示があちこち立てられていて、白地に華やかな絵の具を垂らしたような、ひなげしをたくさん描いたような、でも抽象なのかもしれない。とにかく縦の線。
 
 私若い。知らない男の子が、もうすっかり恋人気分で、しっかり指をからませて手をつないできて、私たちは歩いていく。でも私が好きなのは別の人だ。
 なんとかその手をふりほどいて、本命の人に追いつく。
 
 彼は一人で絵を見ていた。
 長身で、手足が折れ曲がりそうに長い。白人だろうか。でも私が真澄さんにあげたセーターを着ている。私に気づいて微笑む。顔はわからないのに、笑みだけがはっきりしている。
 その笑いかた、ごくたまに、真澄さんがとてもさびしいときの笑いかただ。
 
 きゅうに帰りのバスの中になって、彼はいなくなる。

 席順でもめている。出入口近くに座った者が、順番に降りていく人に花束を渡す手はずなのだけど、その役を私にやらせたくないらしいのだ。
 私、あきれて、お役目だと思うからお引き受けしただけで、べつに私はやらなくてもいいんですよ、などと言う。
 柄本明似の引率の先生がみょうな顔をして、だったらおまえはそっちへ座っとれ、と言う。そっちと言われても、席がほとんど埋まっていて空きがない。

 一つ、二人がけの席の片方が空いているので、失礼してそこへ座ろうとすると、先に座っているのは小学校で同級生だったケイコちゃんだ。ちょっと顔を赤らめている。
 ケイコちゃんは無口で色白で、いつもちょっと顔を赤らめているような子だった。
 
 私たちが遠慮しあって二人とも立つと、その二人がけの席が回転して後ろへ反ってしまう。
 
 なかなかバスが出発できないので、皆の無言の非難がじわじわと寄せてくる。
 そんなの理不尽だ。
 ケイコちゃんと私の、どこが悪いと言うのだろう。


※文中の柄本明さんはもちろん私の夢の中の柄本明さんで、現実の柄本明さんとは関係ありません。

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