第19話

文字数 855文字

 ひじょうに清潔な、巨大な図書館(ライブラリ)研究所(ラボラトリ)かもしれない。
 吹き抜けでガラス張りで、柔らかな陽が射し、アイボリーとスチールカラーを基調にした内装には一分の隙もない。
 
 大柄な、明るい色のあごひげをたくわえた白人男性が、私、あるいは私たちを案内してくれている。ガイドツアーであるらしい。私以外の参加者の顔は見えないけれど。
 男性は教授格らしく、ときおり、彼の教え子とおぼしき若者(たいてい男性のようだ)が数人、はつらつと小走りに通りすぎながら、尊敬をこめた挨拶を捧げ、彼も磊落(らいらく)にそれに応えている。
 
 さまざまな発明やその模型が、オープンなラボラトリのあちこちで造られている。
 あごひげ教授はその中でも随一の自信作を持ってこさせ、私たちの前でデモンストレーションしてくれる。

 それは赤・黄・緑の三色のチップをスチールカラーのコードでつないだミニチュアのジャングルジムのようなもので、手を放しても宙に浮いている。教授がコードとコードの間に太い指を入れてちょっと広げると、たちまちそのサイズに変形し、優雅に宙に浮きつづける。
 これ、セロハンテープの台の中の部分だそうだ。どんなサイズのセロハンテープにも瞬時に対応できるのだ。マーヴェラス!
 
 教授は自信たっぷりに話し続けている。バーミンガムがまたやった、と言っている。
 私はそのすきに自分もそのカラフルな装置に指を入れてみると、やっぱり私の思いどおりに変形する。マーヴェラス!
 
 けれどもそのとき私はすでに目覚めはじめていて、うっすらと気づいてしまうのだ——
 だから何?
 
 この、
 完璧な未来に満ち満ちた、
 科学と経済の発展への絶大な信頼に満ち満ちた、
 一分の隙もない明るい建物の中にいて、
 私は、
 うすら寒い。
 
 起きてから気づく。これは、最近、これまでほとんど読まなかったタイプの文章を毎日浴びせられているせいだ。半年で百万PV行く方法お教えします、などなど、自信に満ち満ちた清潔な、つまり、うすら寒い文章の数々。
 
 起きたら体の節々が痛い。熱を出しかけているらしい。

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