第51話

文字数 477文字

 建物も庭もすべて使いきって、あらもの市をやっている。
 せまい部屋が幾重にもつづき、そこに陶器が山と積まれて、皿も鉢もすべてお買い得。

 たとえば、鈍色に赤や緑をさっとはけたパン皿ほどの丸皿がたくさん積まれてあり、私はそれを、いいな、と思うのだけど、人が多くて、そして大安売り特有のじっとりした熱気に包まれていて、しかも私は誰かを探しているらしく、器を買うのは二の次だ。

 これなんかどう? と私が誰かに言っている。人を探しているのではなくて、案内しているのだろうか。
 そうそう、○○さんだけ会えてないからね、などとも私は言っていて、案内しながら人探しもしているということなのか。

 木づくりの渡り廊下にまで人があふれ、けれどもそれはお酒を酌み交わしているようでもあり、何の熱気かわからなくなってきた。
 庭の植木は深くて、そういえば今年は行けなかったつつじ祭りのようでもある。あじさいのようでもある。

 何も買わず、探す人にも会えず、どうにもむなしいのだけれど、
 不思議とあきらめがついていて、

 ただただ満ち満ちる熱気に身をまかせ、人をかき分けて私は歩いていく。

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