第34話

文字数 286文字

 小さなティーカップとソーサーに土を盛って苔を植えたのを、誰かが私の目の前に出す。
 
 苔は濃い緑から先端の黄色まで、濡れた杉の葉のように繊細に輝いている。
 苔を集中して見つめると、まわりの風景から焦点がはずれてぼやける。
 
 苔のあいだに、ジオラマで使うような、ごく小さな人形たちも置かれている。
 家族であるらしい。
 少なくとも、夫であり父である人形がいる。栗色の髪、水色のシャツ。
 
 苔玉のカップは二つある。一つには、彼の姉妹と妻と娘たちが見え隠れしている。
 もう一つには、彼と息子の二人。甥かもしれない。
 
 私には手に入らない幸せを、黙って見せつけるあなたは、誰なのか。

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