第95話
文字数 1,121文字
今朝の夢。
長くて複雑だったのだけれど、あまりの暑さに熱中症になりかけて目がさめたので、あわてて水を飲んだり梅干しをなめたりしているうちに、順序だてて書けなくなってしまった。だから最後のシーンだけ書いておく。
私たちはどこかのアーケードにいて、でもそのアーケードは豊かに苔むしていて薄暗く、涼しいので、神社の境内なのかもしれない。
私たちというのは私をふくむ五人で、男三人と女二人で、私のそばにいてくれているのは真澄さんのようだけれど、はっきりしない。
アーケード、または鎮守の森のまるい出口を出たすぐ目の前に、大きな河がある。
私たちのうち一組のカップルが薄闇の中へ戻っていき、私は心細くてその二人をふりかえりながらも、河から目が離せないでいる。というのは、この場に不似合いなモーターボートが走っているからだ。
白いモーターボートは澄んだ水をけたてて進み、しかも私たちの目の前を去らない。
そして船尾が少しずつ水に沈んでいく。
そのとき、私たち残っていた三人のうち一人の男の人(真澄さんでないほう)が、突然バイクを走らせて、そのモーターボートの船尾に乗り上げた。
そして激しくしぶきを上げながら、ボートといっしょに沈んでいく。
私ははっとして、
そうか、このボートを運転しているのは彼が愛している女性だった、
と気づいてがくぜんとする。
みずから破滅へ向かうということが、現実にあるのだと思い出して、とほうにくれる。
この男の人は俳優のYさんに似ていた。Yさんは感じのよい素敵な人だったのに、あるスキャンダルを起こして芸能界から半永久的に追放されてしまった。私にはそれが、ただただ、ひどく痛ましく、私よりまだ若くて弟のようなのに、アルコールに溺れ、親しい仲間からも彼の身を思えばこそとはいえ激しくなじられ、立つ瀬もなく、いま、どうしているのかと思うと、他人事ながら気の毒でならなかったのだ。彼はずいぶん前にとあるテレビドラマで、アヤという名前のヒロインの年下の恋人役をたのしそうに演じていて、私もそのドラマをたのしく観たものだから、大ファンというほどではないにしても応援しているつもりだったのに、気がついたらそんなことになっていて、彼が相手の女の子にしたことはたしかに良くないことだったにせよ、どうしてそうなる前に誰かが止められなかったのかと、ひそかに、哀しく思っていた。
その、Yさんには申し訳ないけれど、Yさんが問題なのではない。
私は、真澄さんを、自分の人生に巻きこみたくないのだ。
それでいて、放したくもない。
その証拠に、沈んでいくモーターボートの中が見えるはずはないのに、私には、運転席の女が、微笑んでいるのがはっきり見えた。
長くて複雑だったのだけれど、あまりの暑さに熱中症になりかけて目がさめたので、あわてて水を飲んだり梅干しをなめたりしているうちに、順序だてて書けなくなってしまった。だから最後のシーンだけ書いておく。
私たちはどこかのアーケードにいて、でもそのアーケードは豊かに苔むしていて薄暗く、涼しいので、神社の境内なのかもしれない。
私たちというのは私をふくむ五人で、男三人と女二人で、私のそばにいてくれているのは真澄さんのようだけれど、はっきりしない。
アーケード、または鎮守の森のまるい出口を出たすぐ目の前に、大きな河がある。
私たちのうち一組のカップルが薄闇の中へ戻っていき、私は心細くてその二人をふりかえりながらも、河から目が離せないでいる。というのは、この場に不似合いなモーターボートが走っているからだ。
白いモーターボートは澄んだ水をけたてて進み、しかも私たちの目の前を去らない。
そして船尾が少しずつ水に沈んでいく。
そのとき、私たち残っていた三人のうち一人の男の人(真澄さんでないほう)が、突然バイクを走らせて、そのモーターボートの船尾に乗り上げた。
そして激しくしぶきを上げながら、ボートといっしょに沈んでいく。
私ははっとして、
そうか、このボートを運転しているのは彼が愛している女性だった、
と気づいてがくぜんとする。
みずから破滅へ向かうということが、現実にあるのだと思い出して、とほうにくれる。
この男の人は俳優のYさんに似ていた。Yさんは感じのよい素敵な人だったのに、あるスキャンダルを起こして芸能界から半永久的に追放されてしまった。私にはそれが、ただただ、ひどく痛ましく、私よりまだ若くて弟のようなのに、アルコールに溺れ、親しい仲間からも彼の身を思えばこそとはいえ激しくなじられ、立つ瀬もなく、いま、どうしているのかと思うと、他人事ながら気の毒でならなかったのだ。彼はずいぶん前にとあるテレビドラマで、アヤという名前のヒロインの年下の恋人役をたのしそうに演じていて、私もそのドラマをたのしく観たものだから、大ファンというほどではないにしても応援しているつもりだったのに、気がついたらそんなことになっていて、彼が相手の女の子にしたことはたしかに良くないことだったにせよ、どうしてそうなる前に誰かが止められなかったのかと、ひそかに、哀しく思っていた。
その、Yさんには申し訳ないけれど、Yさんが問題なのではない。
私は、真澄さんを、自分の人生に巻きこみたくないのだ。
それでいて、放したくもない。
その証拠に、沈んでいくモーターボートの中が見えるはずはないのに、私には、運転席の女が、微笑んでいるのがはっきり見えた。