第89話

文字数 302文字

 関東別院の主監になられるご住職とは、前にお会いしているように思えてならない。
 そう母に言ったら、一笑に付されたけれど、可能性はゼロではない。

 二〇〇九年の十月、一家で、法事のために善通寺をおとずれた。
 そのとき、光明殿(永代供養施設)を案内してくださったかた、
 ではなく、
 光明殿の外で、なぜか私ひとりがふりかえって見ていたとき、ことばをかわしたお坊さまのたたずまいを、思い出すのだ。

 お顔もお話の内容も、覚えていない。仏の道についてだったと思う。
 ただ、短くはっきりとくぎるようにして、お声にも立ち姿にも、力が満ちていた、あの感じ。

 かりに別のかただったとしても、私の中で、ひとすじの道がつながった。

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