第32話

文字数 391文字

 夜らしい。いまから野外劇が始まるらしい。
 
 やたらに広い。
 校庭のように平らで、細かい砂利が敷きつめてある。そこにぞんざいな感じで塀が立ててあって、ちょっと迷路のよう。この塀は舞台装置らしい。それにしては長い。
 
 バレエらしい。はじめに出演者全員が三々五々登場する、よくある幕開け。
 本番? リハーサル?
 
 私がいるのは塀のこちら側、舞台の側。他のバレリーナ二人と談笑しながらきっかけを待っていると、音楽が始まって皆つぎつぎに塀の切れ目から向こうへ出ていくので、私たちも走って出る。
 ところが、大きく出すぎて客席から見えない庭のはずれまで来てしまう。これでは何をやってもお客さまに見えない。しかも、あわてて戻る途中で私、ターンに失敗して、あとの二人のひんしゅくを買う。
 その私を至近距離から見ている観客の私もいる。

 曲はチャイコフスキー。

 夕闇が落ち、篝火(かがりび)が焚かれはじめたらしい。

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