Ⅸ. Lies go with the dawn of winter ♯13
文字数 620文字
「いやだ! お父さん! まだ行かないで!」
そう叫ぶと、お父さんは今にも途切れそうな、消え入りそうな声でその言葉を紡いでくれた。
「緋莉……いつまでも愛しているよ」
涙で視界が滲んでいく。
「なんで! どうして逝っちゃうの! お父さん! お父さんっ!」
この世に居ないと思っていたお父さんと、せっかく会えたのに。ようやく家族が揃ったのに。
「お母さんが薬の開発をしてるのなら、わたしもそれを手伝うから! 吸血症候群さえなければ、お父さんだって人間として生きられるんでしょう? なんの問題もないじゃない! なのに、どうして今死んじゃう必要があるの! お父さんっ!」
子どものように泣き喚くわたしの頭に、お父さんの手がそっと優しく触れる。
「俺はずっと、自分が消えるときを探していたんだ。吸血鬼は他の吸血鬼の血を吸うことで、相手の能力を奪うことができる。だがそうすると、その力や衝動は何倍にも増していき、いつかは人格が崩壊してしまう。だから最後に緋莉の能力を奪い、そのまま消えること。それが俺の見つけた、俺の消えるときだ。緋莉のおかげで、俺はこの呪われた運命から開放されるんだよ」
「いやだ! そんなのわたし、全然うれしくなんかない!」
「ごらん、緋莉。もうすぐ……夜明け……が、見える、よ」
太陽は力強く、その輝きを街へと咲かせ始めている。
「夜……凛、子……。最後に、ひと目……」
朝日が次第に眩しくなる。そして、お父さんの体がかすみ消えていく瞬間――。