Ⅴ. instinct was calling ♯2

文字数 607文字

 乾燥させたミントとレモングラスをティーポットに入れて、お湯が沸くのを待つ間にリビングのカーテンを開けると、庭で鮮やかに咲く四季咲きバラ達が新年の朝を彩るように元気に出迎えてくれた。

 ふと昔の記憶が甦る。
 あれはわたしが七歳になった日の出来事だ……。

 あの日、バースデーケーキと共に添えられていたのは、花びらが七色に染められたレインボーローズだった。

 せっかくお母さんが用意してくれたのだからと表面上喜んではいたけれど、カラフルな色彩に正直落ち着かなかったのを思い出す。

『あなたの未来に奇跡を。そして願わくは、無限の可能性がありますように』

 お母さんはそう言いながらケーキのろうそくに火を灯していた。

 どういうことだろう? と不思議に思って訊ねてみると、虹色のバラの花ことばを織り交ぜて贈ってくれた言葉だと教えてくれた。

 そして差し出されたプレゼント。欲しかったドールハウスを前にして、幼いわたしはこれが奇跡なんだと思い、うれしくてはしゃいだ。

 だからわたしは、人からバラをもらうことに特別な意味を期待してしまうのかもしれない。

 カチッとお湯が沸いた音がして振り向くと、ケトルの青い光が消えていた。
 それと同時に、意識が現実へと引き戻される。

 自分でブレンドしたハーブが入ったティーポットにお湯を注ぐと、カップと共にトレイに載せた。

 それから一輪のバラをグラスに移して、それもトレイに載せると自分の部屋へと運んだ。

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