Ⅴ. instinct was calling ♯5

文字数 469文字


「うそ……どうして?」

 さらに翌朝、すっきりと目が覚めたわたしは机の上のバラを見てまた肩を落とした。昨日と同様、無残にしおれて散っている。

 慌ててリビングに向かうと、お母さんへの挨拶もそこそこにダイニングテーブルのバラを確認してみる。

 控えめに佇む二本のバラは数枚花びらを落としてはいるが、昨日と変わらずに凛と咲き誇ったままだ。それならどうしてわたしの部屋に持っていったバラだけが枯れてしまうのだろう?

 品種がどうとか気温がどうとかじゃなくて、わたしの部屋に持っていったから散ってしまった。そんな気がする。もしかしてバラは淋しいと枯れてしまうのだろうか。もちろんそんな話は聞いたことがない。

「お母さん、またバラが枯れちゃった」

 コーヒーを飲んでいるお母さんにそう伝えると、お母さんは本から視線を上げて、少しだけ悲しそうに「残念ね……」と小さくつぶやいた。

 部屋に戻ってしおれたバラと散った花びらを片付けると、バラのこともお母さんの態度もどこか腑に落ちないまま、わたしは出掛ける準備を始めた。

 今日は瑞花と映画や買い物に行く約束をしている。

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