Ⅸ. Lies go with the dawn of winter ♯5
文字数 433文字
力が抜けて徐々に視界が狭くなっていく。このまま意識を失うそのとき、わたしの命は終わるのだろうか。
十六年という長いようで短いわたしの人生は、振り返ればとても満たされていたものだったと、今なら思える。
お父さんは居なかったけれど、優しいお母さんから沢山の愛情を与えてもらった。
誕生日やクリスマス、それに入学式や卒業式といった節目にはささやかだけどお祝いをしてくれて、片親でも淋しさを感じることなんて殆どなかった。
幼い頃から瑞花という親友もいた。
好きな人とも両思いになれた。
そして恩人に報いて生を終えることが出来る。
死ぬことにさえ意味を見出せるなんてとても素敵な人生だったのだと、わたしは満足して死んでいけるだろう。
だけどお母さんをひとり遺してしまうのが、わたしの唯一の心残りだ……。
辺りの景色が完全に暗闇に変わる瞬間。途端に身体が軽くなり、ルカさんがわたしから離れた。
しかし途切れかけた意識が戻る事はなく、わたしはそのまま暗闇の奥底へと沈んでいった。