Ⅲ. Luca ♯10

文字数 397文字

 家に着くと、門を背にしてルカさんと向かい合うように振り返る。しかしルカさんの視線はわたしをすり抜けて、庭のほうへと向けられていた。

「四季咲きバラか」

「はい、お母さんが育ててるんです。きっと、お父さんが好きだった花だから」

 わたしの言葉にルカさんはなにも答えずに、庭のバラをどこか愛おしそうに見つめている。

「……Crăciun fericit」

「え?」

 今、なんて言ったんだろう。多分日本語じゃなかった。でもどこかで聞いたことがある響きだ。

「あの、今なんて……?」

「なんでもない。俺はもう行くよ」

 優しく響いたのは、なぜか淋しさを感じさせる言葉。

「送ってくれて、ありがとうございました」

「もう夜は出歩くなよ」

「…………」

 踵を返して門に手をかけるけれど、なぜだろう。それ以上手が動かない。
 
「どうした?」

 不思議だ。この人に恋をしたわけじゃない。なのに、このまま離れたくないと思うわたしがいる。

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