Ⅵ.『Vampire’s love』 ♯2

文字数 752文字

 悪役令嬢、執事ハーレム、異世界転生、禁断のオフィスラブと並ぶ中、イケメンバンパイアのカテゴリが目に留まる。表紙にはさらっと流れる黒髪に、切れ長の赤い目をした男性のイラストが描かれていた。髪の色は違うけれど中世的な顔立ちがどことなくルカさんと重なる。

 タイトルには『Vampire's love』と書かれていた。飾り気のないシンプルなタイトルに惹かれて読んでみると、それは悲恋の物語だった。


 ルーマニアの北西部。とある森の中にひっそりと佇む洋館があった。そこにはとても仲の良い夫婦が暮らしていた。休日は共に本を読み、森の中を散歩して、夫が奏でるピアノに合わせて妻が踊る。ふたりはそんな幸せな日々を過ごしていた。

 しかしある日、妻が突然病に倒れ、夫を残して永逝してしまう。

 毎日妻の墓で泣いていた夫は生きる気力を失い、妻のあとを追う決心をする。しかしそのとき、体の中で古い先祖の血が目を覚まし、隔世遺伝のバンパイアとして目覚めてしまう。

 首から妻との思い出が刻まれた指輪を下げて、本能のまま人の血を吸うバンパイア。彼は次第に人としての理性と愛情を失っていった。

 歳月が過ぎると、世間でもバンパイアの存在が囁かれるようになった。すると徐々に国中がバンパイア騒動に沸き始め、いつしか討伐隊が編成されることになる。以来バンパイアは身を隠すように闇に潜み続けた。

 そんなある日の夜、街を彷徨っていたバンパイアは、ふと通りがかった建物に目を奪われる。

 その瞳に映っていたのは、窓の向こうで可憐に踊るひとりの女性。踊り子の姿に妻の面影が重なり、失くしたはずの感情がその日を境に徐々に甦り始めていく。しかしかつて自分が人間だったことを思い出すと、今度は人の命を奪い生き長らえてきたことへの苦悩に苛まれてしまう。

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