Ⅸ. Lies go with the dawn of winter ♯8

文字数 728文字

「ようやく探し物を見つけることができた。夜明けまでに全てを話そう」

 ルカさんの呼吸はどんどん荒くなっていく。東の空はうっすらと白んでいた。

「緋莉、いいね。俺も聞いておきたい」

 優陽に諭されて、わたしは黙って小さく頷く。

「その前に、煙草に火をつけてくれないか? 右のポケットだ」

 優陽がルカさんの上着へと手を伸ばす。だけど、ルカさんはその手を制して、なぜかくすりと微笑んだ。

「いや、やっぱりやめておこう。娘に『やめろ』と言われたんだ……」

 そうか、娘さんにはちゃんと会えていたんだ。ルカさんの家族への愛情や、人間味のある一面が垣間見えただけで、今は少しほっとする。やっぱりこの人はただの殺人鬼なんかじゃない。

「まずは緋莉。お前の体に起きていた異変の事だが、あれは隔世遺伝によるものだ」

 ――隔世遺伝? どこかで聞いた言葉に体が強張る。遺伝というくらいだから、病気ではないのだろうか。

「隔世遺伝は、子に受け継がれなかった遺伝子が、何代か後になって突然現れる遺伝現象だ。だけど、緋莉の場合は少し違う。緋莉は元々ただの人間として生きていた。しかし、あることがきっかけで、古い先祖の中にいた強い吸血鬼の血が目を覚ましたんだ」

 理解が追いつかない。吸血鬼の血ってなに? そんなのわたしには関係ない。だってわたしは人間だもの。

 ――そう、今までは思っていたけれど。

「やっぱり……わたしは、ヒトじゃないんですか?」

 声が震える。ルカさんは嘘をつかない。そう信じてきたからこそ、この言葉が嘘であるなんて思えない。

「緋莉、君は僕と夜凛子の間に生まれた、たったひとりの娘だよ」

 ルカさんが横たわったまま、そっとわたしへと手を伸ばした。

 しかしわたしはその手を掴まずにあとずさる。

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