Ⅴ. instinct was calling ♯13

文字数 527文字

 カフェを出たあともモールの中をもう一周してみたが、結局ルカさんへのお礼は決まらなかった。

 そもそもほとんど女性物のショップだし、かといってお菓子の詰め合わせなんかもちょっと違う気がする。

 だけどメンズの服屋さんは入りづらいし、男性のアクセサリーや小物なんてもはや異次元だ。

 なんとなく気になるショップへちらちら視線を送りながら、ただ通り過ぎる。それを何度も繰り返す。もしもルカさんとふたりでここに来たとしたら、彼はどんな店に入るのだろう? そしてどんな話をするのだろう?

 淡い妄想を膨らませていると、ふと浅桜くんの顔が頭に浮かんだ。途端に自分でもわかるくらい、表情が曇っていく。

 ――なんなんだわたしは。

 浅桜くんが気になったり、ルカさんが気になったり、蓮崎くんのことを少し迷惑に思っていたり……。わたしはこんなにも異性に対して気が多かったのだろうか。

 瑞花の言う通り、わたしは浅桜くんのことが好きなくせにルカさんのことを意識している。

 少し前までは浅桜くんしか見えていなかったはずなのに、恋心が希薄になっているということだろうか。

 入学してから今まで想い続けてきたわたしの気持ちは、こんなにも簡単に塗り替えられるほど、薄っぺらいものだったのだろうか。

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