Ⅰ. in the darkness ♯2

文字数 683文字


 わたしが暮らす冬咲市双木町。

 この街では、冬を彩る装飾も乏しい。けれど身を寄せ合って歩くカップルは多い。

 控えめに電飾が施された街路樹の道を、見せつけるようにくっついて歩く男女。
 寒い寒いと言いながら、暖かそうに頬を紅潮させる同い年くらいの女の子。

 今すぐ彼氏が欲しいってわけじゃないけれど、ちょっとくらいはうらやましいと思う。

 かといって、人より飛び抜けてかわいくなりたいとも思わなければ、そこまでお洒落に貪欲でもない。

 派手過ぎず地味過ぎず。

 至って普通を貫いていればクラスの中で浮くこともないから、日々を平和に過ごす事ができる。変なしがらみに巻き込まれなくていい。

 入学して間もない頃は、わたしの周りでも次々とカップルが誕生していた。

 わたしもその時期から、浅桜(あさくら)優陽(ゆうひ)くんという同級生の男の子に密かに想いを寄せている。

 バスケ部所属で背が高く、サラッと流れるような黒髪が印象的で、数学と物理が得意な優等生だ。

 だけどほとんどのクラスメイト達は、四月に出会って、五月に付き合い、六月には別れてしまっていた。

 どうしてそんな簡単に付き合って、簡単に別れることができるのだろう。

 入学式で顔を合わせて間もなく、会話が弾んでいた男女が翌日には付き合っていた。

 本当に相手を好きになって付き合っているのかと疑問に思って見ていると、二ヶ月と経たずに別れている。わたしには理解不能だ。

 デートをした。手を繋いだ。キスをした。家に行った。そして別れた。

 入学して間もなくは、こんな報告が女子の間を忙しく駆け回っていた。

 恋愛経験値を上げることに、そんなに価値があるのだろうか。

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