Ⅶ. the sprouting love ♯22

文字数 745文字

「よく眠ってたね。気分はどう?」

 菊川先生がベッドの横の椅子に腰掛けて、わたしのおでこに手を当てる。

「ちょっとぼーっとする気もするけど、もう平気。先生、もしかしてずっとついててくれたの?」

「ここがわたしの職場だからねー。うん、やっぱり熱もないみたいね」

 ここまでは浅桜くんが運んでくれたのかな。階段の踊り場で本城先輩達に絡まれて急に目眩がしたことまでは覚えているけれど、その後どうなったのかがわからない。

「ごめんなさい先生、迷惑かけちゃって……」

「生徒がそんなの気にしなくていいよー」

 いつもどおり物腰柔らかでのんびりとした菊川先生の声は、わたしの心を仄かに落ち着かせてくれる。

「そういえばあなたのお母さんに連絡したときに教えてもらったんだけど、立華さん、少しだけど染色体異常があるらしいね。それが原因で貧血を起こしたり、急に耐えきれない程の睡魔に襲われるんだって? またなにかあったら無理しないで休みにおいでね」

「え?」

 なんのことだろう? わたしはお母さんからそんなことを聞いた覚えはない。

「染色体異常って、お母さんがそう言ってたの?」

「うん、そうだよ。だからそのまま寝かせておいてほしいって頼まれたの。だけど、ようやく投薬治療の目処が立ったんだってね。今まで

XY

薬が、XX染色体でも効果が現れるための有効成分が見つかったんだって、お母さんとても喜んでたよ。よかったね」

 もしかしてわたしは病気の可能性があるってこと? まさかお母さんが作ってる薬は、わたしのための治療薬だったのだろうか?

 だけど、さすがに娘のために薬を作るなんて大それたことができるとは思えない。

 それにわたしは病院にかかったりもしていないのに、なぜ投薬をする予定になっているのだろうか。

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