Ⅰ. in the darkness ♯10

文字数 666文字

 しかし銀髪男性とわたしが目を合わせた次の瞬間、わたしに絡んできた男達が一斉に彼に飛びかかっていた。中には金属バットを振り上げている男までいる。

「危ない!」

 咄嗟に叫んだが、ゴキッという鈍い音が数回辺りに響く。

「今のうちに行け! 早くここを離れろ!」

 倒れながらも声をあげる銀髪男性。

 男達は容赦なく彼を蹴りつけて、金属バットが何度も振り下ろされる。

「で、でも……っ!」

 倒れたままの銀髪男性を執拗に殴りつける男達。暴行を楽しむような表情。

 ほんとうに同じ人間なのだろうか。もはや狂っているとしか思えない。悪い人どころではない。こいつらはきっと悪魔だ。

「や、やめてください!」

 なんとかしなくちゃ。このままじゃこの人が殺されてしまう。
 けれどあまりに恐ろしい光景に思考が停止してしまい、声も出せない。

 なにもできないまま立ち尽くしていると、しばらくして暴行がやんだ。

「かっこつけ野郎が、粋がってんじゃねえよ」

 血のついた金属バットが月明りに浮かぶ。

 あれだけの暴行を受けて、彼は生きていられるのだろうか? この人達は、こんなにも簡単に人の命を奪えるのだろうか?

「おい、この女どうする?」

「騒いじまったからな。とりあえず車に積んじまうか」

 男達がにたにたと不気味な笑みを浮かべて近づいてくる。

「いやだ……やめて……」

 警察に通報? ううん、救急車? とにかく、助けを呼ばなくちゃ。

 でも今スマホを取り出してどこかに連絡しようとしたら、この男達はわたしになにをしてくるのだろう。

 すぐそこに待つ惨劇を想像すると、体が震えて力が入らない。

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