Ⅷ. Final truth ♯23

文字数 848文字

 自分の部屋で好きな人とお茶をしている現実にも少し慣れ始めた頃、優陽は窓から暗くなった庭を見下ろしていた。

「緋莉のお母さんは、ルカのこと知ってるの?」

「うん、最初は心配かけたくなくて黙ってたんだけど、大晦日に話したよ。そしたらお礼がしたいからって、一度連れてくるよう言われたっけ」

 そう答えると、優陽はふと考え込むように黙り込んだ。

「……どうしたの?」

「いや、この家のバラもかなり見事だろ? せっかくの広い庭なのに、普通の一般家庭じゃ考えられないくらいバラ一色だし、なんか引っかかるんだ」

 わたしが物心着いた頃からずっと、庭はバラで埋め尽くされていた。だから疑問に思うことはなかったけれど、言われてみれば他の場所、たとえば友達の家やお店のテラスがここまでバラだらけだったことはない。そう考えるとわたしの家の庭は少し度を越しているのかもしれない。

「お母さんは、お父さんが好きな花だからって言ってたはずけど、それ以外の理由はわたしも聞いたことないなあ」

 それを聞いた優陽が、また首を捻る。

「ルカが緑地公園のバラに惹かれて冬咲市にやってきただけならまだわかるけど、バラに覆われたこの家とも関係してくるなんて、どうも偶然にしては出来過ぎているような気がするんだ。それならルカは緋莉に固執してるわけじゃなくて、実は立華家に固執していると考えることだってできる」

 優陽は口に手を当てて、まるで探偵のようにぶつぶつ言葉をこぼしながら険しい顔をしている。

「緋莉はルカと話してて、なにか気になることはなかった? なんでもいいんだ。少しでも情報がほしいからな」

 そう訊かれて思考を大晦日へと巡らせる。優陽ばかりに任せるんじゃなくて、わたしも自分なりに考えて手がかりを掴まなきゃ。

「そういえば、一度瑞花と皆渡くんがルカさんと会ったときに、瑞花がどこから来たのかって訊ねたの。そうしたらトランシルバニアって言ってた」

「よし、調べてみよう」

 優陽は早速スマホで地名を調べ始めた。

「北欧のルーマニアだな。他にはなにかある?」

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