Prologue ♯2

文字数 697文字

 スパイスを塗りこんで寝かせておいたチキンの両足をたこ糸で結び、オリーブオイルを馴染ませ、熱したフライパンに結んだ足を下側にして中火にかける。

 焼き色を確認してからひっくり返し、さらにもうしばらく中火にかけて、最後に白ワインを注いで弱火で蒸し焼きにする。

 もちろんフライパンで作ったことなんて一度もない。
 こんな大きな鶏のかたまりにちゃんと火が通るのかという不安もある。
 だけどオーブンが使えない今、これで成功させるしかない。

「緋莉はマジで料理うまいよな」

 壊れたオーブンをコンコンと叩いてぼやくようにそう言ったのは、同級生で瑞花の彼氏でもある皆渡(みなと)蘭雅(らんが)くん。

「わたしなんて大したことないよ。それにフライパンで焼くのは初めてだから生焼けになるかもしれないし、そのときはごめんね」

  好きなことを褒めてもらえてうれしいけれど、失敗したときの為にとりあえず先に謝っておく。

 ひっくり返すまでは概ね順調だったと思う。
 焼きながらダイニングテーブルに目をやると、みんな楽しそうにサラダの盛り付けを始めていた。

 その向こうで点けっぱなしになっているテレビからは、女性キャスターと胡散臭い芸能リポーターの討論が聞こえてくる。

 内容は先月ここ冬咲市で起きた男性の不審死についてだ。

 大きな外傷が無いにも関わらず失血死した被害者には、過去に二度の性犯罪歴があると疑われており、その被害者による復讐だとか、犯行グループの内輪揉めで殺されたとか、俺はすべて分かっていると言わんばかりの顔で講釈を垂れている。

 いまだに自殺か他殺かさえ判明していないのは確かに不可解だけど、高校一年生のわたしにはおそらく無縁な話だろう。

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