Ⅸ. Lies go with the dawn of winter ♯1
文字数 590文字
夜の闇に潜むように、わたしと優陽はバラ園の隅で肩を並べていた。
「これからどうするの? このままルカさんが来るのを待つ?」
「いや、あいつはきっと近くにいるさ。こっちから呼びかけてみよう」
優陽がわたしの手を取り、淡々と告げるように言った。
「ルカ……いるんだろ? 話がしたいんだ。姿を見せてくれ」
そう言い終えると、途端に辺りに濃い霧が漂い始める。
「これはおそらく吸血鬼の力だ。彼らはその姿を霧に変えることが出来るらしい」
わたしを助けてくれたあの日、ルカさんが初めて姿を見せたときも、辺りには濃い霧が立ち込めていた。
次第に霧が一箇所に集まると、徐々に人の姿を型取り始める。
「やっぱりな」
優陽が低い声で呟く。かなり吸血鬼について知識を身につけたらしい。同時にルカさんが吸血鬼だという疑いはもはや確信と化していた。
本当に吸血鬼が実在したということよりも、ルカさんがそうだったという事実のほうがショックは大きい。
「じゃあやっぱり、あのとき五人を殺したのは……」
思わず声が漏れる。信じた人に裏切られたような深い哀しみが、わたしの心を支配する。
でも今この感情に飲まれるわけにはいかない。ちゃんとルカさんの口から真相を聞くまでは、どんな真実が待ち受けてるかなんてわからないのだから。
人の形を成した霧から、ルカさんが姿を現した。その瞬間、ルカさんが人外であることが確信へと変わった。