Ⅸ. Lies go with the dawn of winter ♯4

文字数 368文字


 ほんの少し口を開けたルカさんが顔を近づけてくる。針のように鋭い二本の牙が見えた。

 あぁ、ルカさんはほんとうに吸血鬼だったんだ。
 それなら最初に、あの助けてくれたときに教えてくれればよかったのに。

 ルカさんが助けてくれなかったら、わたしはどうなっていたかわからない。酷い目に遭って心を壊していたかもしれないし、最悪殺されていたかもしれない。

 きっと生きるために人を殺めるなんて、優しいルカさんには耐え難い苦痛が伴っているに違いない。それならもっと早く、わたしの血を差し出せばよかった。

 ルカさんの細い牙が首に食い込んでいく。不思議と痛みは感じない。けれど、そこからわたしの身体を巡る血液が吸い取られていくのを感じる。

 死ぬってこんな感じなのかな。暗くて深い海底にゆっくりと沈んでいくような感覚。ふわふわとして、心地よささえ感じてしまう。

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