Ⅴ. instinct was calling ♯3

文字数 609文字

 トレイを机の上に置き、椅子に腰掛けてスマホのホーム画面を開く。

 わたしが眠っていた深夜のうちに、瑞花や浅桜くんを含む数人の友達からメッセージが届いていた。

 そしてSNSも遡りきれないくらいの投稿で溢れている。だけど大半が知らない人だ。

 前々から準備していた画像を添付して、『明けましておめでとう』という一文を入力すると、わたしもすぐにタイムラインに投稿した。なぜだか分からないけれど、みんなが投稿しているのだからわたしも早くしなければならない、そんな焦りを感じてしまう。

 それが済むと、次はメッセージの返信だ。こちらも早くしないと既読スルーだと思われてしまう。

 今の世の中、誰にもその存在を知られずに過ごしている人なんてこの世にいるのだろうか。ひとりでいても常に誰かと繋がっている気さえしてくる。

 友人関係が煩わしいとまでは言わないけれど、誰もいない場所に行きたいと思うことがたまにある。

 わたしの知らない、わたしを誰も知らない世界。

 そこにはどれだけの解放感があるのだろう。想像するだけで空を飛ぶような自由を感じる。

 ありふれたスタンプと新年の挨拶を友達に送って、瑞花にはいつも通り少しのメッセージを添えて返した。

 最後に残ったのは浅桜くんだった。なんて送ればいいんだろう。

 映画をドタキャンしたこと、ルカさんを追いかけていて、気を遣わせてしまったこと、どこか他の友達と差のあるメッセージにしたい、そんな恋心……。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み