Ⅵ.『Vampire’s love』 ♯6

文字数 401文字

 浅桜くんを待ちながら談笑している間、わたしはちらちらと視線を駅の出入口へと送っていた。そのせいかふたりの会話はあまり耳に入らない。

 うわのそらで相槌を打ち続けて約束の二分前になった頃、グレーのコートに身を包んだ浅桜くんが歩いてくるのが目に留まった。

「あっ、浅桜くん!」

 その瞬間、膨らんでいた胸のつかえがぱちんと弾けた気がした。思わず高らかと手を挙げて大きな声で呼びかけてしまい、咄嗟に両手で口を塞ぐ。振り返ると、瑞花と皆渡くんがニヤニヤと笑みを浮かべていた。

「いや、あの、えーと……」

 しどろもどろしているところに浅桜くんが到着して、小首を傾げる。

「待たせてごめん……って、あれ? どうかしたの?」

 頬が熱い。浅桜くんの顔をまともに見ることができない。

「べっつにー! おはよ浅桜くん。じゃあ行こっか」

 あたふたしていると瑞花が元気よくその場の空気を変えてくれた。自分の不甲斐なさに胸がもやっとする。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み