Ⅸ. Lies go with the dawn of winter ♯12
文字数 514文字
「お……とう、さん……」
一粒の涙が、お父さんの顔にこぼれ落ちた。
「緋莉には、随分淋しい想いをさせたことだろう。本当にすまなかった……」
間違いない。この人が……この人こそが、わたしのお父さんだ。
「だけど、もう心配ない。緋莉は
誰を殺めることもなく
、誰の血を吸うこともなく
その力を失くした。その血は君の心と同じ、汚れを知らず真っ白なままだ。君はこれまでも、そしてこれからも、ずっと変わらず人間のままだよ」「あなたが、緋莉から吸血鬼の力を奪ったから……?」
そう問いかける優陽の声も、小さく震えている。
「ほんとうにすごいな、君は。そんなこと、どの文献にも載っていなかっただろう」
「血を吸った相手が絶命する瞬間に吸血をやめれば、相手を吸血鬼にして意のままに操れる。それなら能力を奪って人間に戻すこともできるんじゃないかと思っただけです。でなければ、あなたが緋莉の血を吸う理由が成立たない」
「そのとおりだ。そうしなければ緋莉の覚醒を抑えられなかった。俺に力が移った今、緋莉に吸血鬼の力はない。だから緋莉はこれからも、胸を張って人間として生きるんだ」
朝日が差し込んできた。同時にお父さんの体から霧が立ち昇り、その姿が少しずつ透けていく。