Last chapter. addicted to you ♯6

文字数 638文字


 贈り物にも言葉にも、そして、優しい嘘にも意味がある。

 優陽とこんなふうに笑い合える日々。それをくれたのはお父さんだ。

 雪が景色を染め上げていくみたいに、わたし達の未来は真っ白だ。

 クリスマスイブの夜、お父さんが来てくれなかったら、わたしの未来は赤い血にまみれていたかもしれない。もしかすると吸血鬼として覚醒して、沢山の人を殺めていたかもしれない。

 だけどそれを、お父さんが命を賭して止めてくれた。

 朝日が街を暖かな陽で照らしている。

 桜が風に舞い、日の光を浴びてきらきらと雪のように降り注いでいた。

 息を止めて見惚れてしまうこの輝きを、お父さんにも見せてあげたかった。

 月の隠れ家で息を潜めて、血塗られた真実を背負い、誰にも知られず夜の闇を生きていたお父さん。

 叶うなら、鮮やかな季節の中を、この降り注ぐ日差しの下を、夕日が照らす穏やかな街を、あなたとふたりで肩を並べ歩きながら、沢山の言葉を交わしたかった。

 他者との接触や交流を避けて生きる歳月の苦しみは、わたしにはわからない。だけど、今まで自分がどれほど狭い世界しか見ていなかったのかと、わたしは己の小ささを知った。

 人生という短い時間の中から見れば、世界は果てしなく広い。まだ見ぬ景色がどこまでも続いている。

 小さな画面に展開される無限の電子空間に、わたしは縛られて生きているのだと思っていた。

 だけどそんなもの、この世界のほんの一部分にしか過ぎない。そんな小さな世界に囚われる必要なんて、きっと最初からなかったんだ。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み