Ⅸ. Lies go with the dawn of winter ♯9

文字数 888文字


 信じられない、信じたくない。でもこれが、これこそが紛れもない真実なのだと本能で理解できる。だけど、

「い、いや……。そんなの……いやだ!」

「緋莉、大丈夫。落ち着いて」

 優陽がわたしの肩を抱いた。わたしは怖くなって優陽の胸に隠れるように顔を埋める。

「俺はあなたが吸血鬼ということも今は信じています。そして、吸血鬼が歳を取らないということも、血を吸った相手を生かしておけば、意のままに操れることも知っています。だから蓮崎の行動も今なら理解できる。でも、緋莉はこれまで人間として生きてきました。なのに突然吸血鬼の血を引いていると言われても、受け入れられないのは当然です」

 落ち着いて話す優陽の声が、わたしの心も少しだけ落ち着かせてくれる。

「そう、緋莉は人間として問題なく生きていた。だが君に出会って、緋莉にある変化が訪れた」

「俺と出会ってからの……変化」

 その言葉で優陽がはっとしたような顔を見せる。ルカさんは目を閉じると、くすりと笑って言葉を続けた。

「緋莉は、生まれて初めて恋をしたんだ。君の言うとおり、吸血鬼の血を吸う行為は相手を支配するためのものでもある。だからこそ、君への想いが吸血鬼として目覚めるきっかけになったんだろう」

 そう言われた優陽は言葉を詰まらせ、喉の奥から絞り出すように叫んだ。

「っ……、たとえそれが真実だとしても!」

 苦渋に満ちた表情。彼の心の叫びが、そして涙が、わたしの心臓を穿つ。心の中で「ごめんね」とひたすら唱え続けるけれど、それはなんの意味も持たない。

 もう自暴自棄(ヤケ)になりそうだ。でも今のわたしがそうなったとしたら……。そんな予感が恐怖となってのしかかってくる。

 狂いそうなわたしの心。だけどそこに、優陽の言葉は小さな光を灯してくれた。

「俺にとっては緋莉が吸血鬼ということよりも、緋莉との未来のほうが大切なんだ!」

 力強い言葉の全てが、わたしの心に強く響く。

「優陽……」

 思わぬ涙が頬を伝った。

「教えて下さい。これから俺達は、どう生きていけばいいですか?」

 わたしとの未来……。わたしも優陽と未来を作っていきたい。なのに、わたしが吸血鬼だなんて……。

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